
設計図書とは|図面と仕様書
建物の工事の話で出てくる「設計図書(せっけいとしょ)」とは、何のことでしょうか。
設計図書は、建物の工事のための図面と仕様書を合わせた呼び名です。
図面は、建物・機械・土木工事などの構造や工程を細かく示した図を指します(デジタル大辞泉「図面」)。仕様書は、工事の中身や手順を説明した書類です(デジタル大辞泉「仕様書」)。
たとえば壁を塗る工事なら、仕様書には、使う塗料と、塗る順番や量が書かれます(公共建築工事標準仕様書 18.9.2)。
工事をする人は、この2つに従って工事をします。工事を確かめる人が照らし合わせるのも、この2つです。
設計図書とは、何を指すのか
建物の工事に使う図面と仕様書の2つを、まとめて設計図書と呼びます(建築士法 第2条第6項、建築基準法 第2条第十二号)。

上の絵の図面の束と仕様書の冊子を合わせたものが、設計図書にあたります。
「図書」と聞くと、図書館の本を思い浮かべるかもしれません。
「図書」という語は、もとは絵と書物を合わせた言い方です(精選版 日本国語大辞典「図書」)。設計図書の「図書」も、図面と書類のことです。
法律の言葉では、自分の責任で設計図書を作ることを「設計」と呼びます(建築士法 第2条第6項)。考えるだけでなく、図面と仕様書に書き上げるところまでが設計です。
ただし、図面の中にも、設計図書に入らないものがあります。
現寸図は、実物と同じ寸法で描いた、物を作るための図面です(精選版 日本国語大辞典「現寸図」)。法律は、現寸図と、それに類する図を、設計図書から外しています(建築士法 第2条第6項、建築基準法 第2条第十二号)。
外す理由は、条文には書かれていません。ただ、誰が現寸図を作るかは、国土交通省の基準で確かめられます。
官庁営繕(かんちょうえいぜん)とは、国の役所の建物を建てたり直したりする工事のことです。国土交通省は、官庁営繕のための基準を決めています(公共建築工事標準仕様書 表紙、建築工事設計図書作成基準 表紙)。
この記事では、国土交通省が官庁営繕のために決めた基準を、まとめて「国の工事の基準」と呼びます。
この基準は、国の建物の工事のために国土交通省が決めたものです(公共建築工事標準仕様書 表紙、建築工事設計図書作成基準 表紙・1.2)。ふつうの家の設計図書が、この基準と同じ形とは限りません。
国の工事の基準では、現寸図は、工事をするために描く細かい図の1つです(公共建築工事標準仕様書 1.1.2(タ))。現寸図を作るのは、工事を請け負った側で、工事を始める前に作ります(同 1.2.3)。
設計図書は、設計する人が作るものです(建築士法 第2条第6項)。現寸図のほうは、工事をする側が作ります。
括弧の中の「1.1.2(タ)」のような数字と記号は、その資料の中の項目の番号です。「同」は、すぐ前に挙げた資料と同じ、という意味です。
設計する人が描く図面と、工事をする側が作る図面の違いは、「設計図・施工図・竣工図|図面の段階」の記事で解説しています。
設計図書を作る人と使う人は、それぞれ誰か
設計図書を作るのは、設計する人です。工事をする人はそれに従い、工事を確かめる人はそれと照らし合わせて工事を確かめます。
この人たちに仕事を頼むのは、建築主です。建築主は、建物の工事を頼む人のことです(建築基準法 第2条第十六号)。
設計する人を、法律の言葉では設計者と呼びます。自分の責任で設計図書を作った人のことです(建築基準法 第2条第十七号)。
工事をする人を、法律の言葉では工事施工者と呼びます。工事を請け負った人と、人に頼まずに自分で工事をする人のことです(建築基準法 第2条第十八号)。
人に頼まずに自分で工事をする人は、建築主にも入ります(建築基準法 第2条第十六号)。この場合は、1人が建築主と工事施工者の2つの役目を持つわけです。
工事施工者のうち、工事を請け負った側を、国の工事の基準では受注者と呼びます(公共建築工事標準仕様書 1.1.2(イ))。工事を頼んだ側は、建築主です(建築基準法 第2条第十六号)。
受注者は、設計図書に従い、責任をもって工事をします(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(2))。
設計図書は、工事の現場に備えておきます(同 1.1.6(1))。工事をする場所で、設計図書を見て確かめられるようにするためです。
工事監理(こうじかんり)は、工事を設計図書と照らし合わせ、そのとおりに行われているかを確かめる仕事です(建築士法 第2条第8項)。この仕事をする人を、工事監理者と呼びます。
建築士は、国や都道府県の免許を受けて、建物の設計や工事監理などの仕事をする人です(建築士法 第2条第1項〜第4項)。
法律で決まった大きさや造りの建物では、設計と工事監理を、建築士がしなければなりません(建築士法 第3条〜第3条の3)。その工事では、建築主は、建築士である工事監理者を決めなければなりません(建築基準法 第5条の6第4項)。
設計や工事監理を建築士の事務所に頼むのも、建築主です(建築士法 第24条の7)。
工事が設計図書のとおりでなければ、工事監理をする建築士は、すぐ工事施工者に伝えて、設計図書のとおりにするよう求めます(建築士法 第18条第3項)。工事施工者が従わないときは、そのことを建築主に報告します(同)。

上の図の設計者・工事施工者・工事監理者は、法律の上ではそれぞれ別の役目です。
役目が別でも、1人が2つの役目を持つことはあります。上に書いた、自分で工事をする建築主がその例です。
工事をする人と確かめる人が、設計者の作った同じ設計図書を使うので、工事が「決めたとおりか」を確かめられます。
図面を使う人と、使う時期は、「建築図面とは何か|なぜ必要か・誰が使うか」の記事で解説しています。
仕様書には、どんな種類があるのか
国の工事の基準では、仕様書は2種類です。多くの工事に共通する決まりをまとめた仕様書と、工事ごとに作る特記仕様書を使います。
共通の決まりをまとめた仕様書として、国土交通省は「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」を決めています(公共建築工事標準仕様書 表紙)。名前に「公共」とありますが、官庁営繕のための基準です(同)。
名前の後ろの「(建築工事編)」は、工事の分野を表します。建物の電気や機械の設備の工事には、同じ名前の「電気設備工事編」と「機械設備工事編」があります(建築設備工事設計図書作成基準 2.1(1))。
この記事で「標準仕様書」と書くときは、この公共建築工事標準仕様書(建築工事編)のことです。
標準仕様書は、建物を新しく建てる工事と、建て増す工事に使います(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(1))。
建物を直す工事や木造の建物には、別の共通の仕様書があります。「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」と「公共建築木造工事標準仕様書」です(建築工事設計図書作成基準 2.1(1))。
令和7年版の標準仕様書は、1章「各章共通事項」から23章「植栽及び屋上緑化工事」までの、23の章でできています(公共建築工事標準仕様書 目次)。
2章から後は、工事の種類ごとに章が分かれています。鉄筋工事・コンクリート工事・鉄骨工事・防水工事・タイル工事・木工事・塗装工事・内装工事などです(公共建築工事標準仕様書 目次)。
もう1つの特記仕様書は、その工事だけの決まりを書いた仕様書です。
その工事にどの共通の仕様書を使うかも、特記仕様書に書きます(建築工事設計図書作成基準 4.3(3)1))。
標準仕様書の中には、「特記による」と書かれた所があります。そこで何を使うかを、標準仕様書では決めずに、工事ごとの書類に任せているのです。
標準仕様書で言う「特記」とは、その工事の書類に書かれた事項のことです(公共建築工事標準仕様書 1.1.2(ス))。特記仕様書に書かれた事項のほか、その工事の図面などに書かれた事項も入ります(同)。
特記仕様書には、標準仕様書が「特記による」とした事項や、標準仕様書に無い材料などを書きます(建築工事設計図書作成基準 4.3(3)3))。
共通の決まりは標準仕様書にあるので、特記仕様書に書くのは、その工事で決めることと、標準仕様書と違うことだけです(建築工事設計図書作成基準 2.1(2)・4.3(3)3))。
特記仕様書に何が書かれ、どう読むかは、「特記仕様書の読み方|工事概要・適用する仕様」の記事で解説しています。
図面を見れば、工事の中身は全部分かるのか
国の工事の基準では、図面を見ただけでは、工事の中身は全部は分かりません。
図面には材料や工事のやり方の名前を書き、その決まりは標準仕様書の側にあるからです。
図面に書く材料や施工方法(工事のやり方)の名前は、標準仕様書に書かれたとおりにします(建築工事設計図書作成基準 2.1(1))。
そのうえで、標準仕様書で決まっている事項は、図面と特記仕様書には書きません(建築工事設計図書作成基準 2.1(2))。この基準は、図面の書き方と表し方をそろえて、仕事の効率を上げるためのものです(同 1.1)。
仕上表という図面を例に見ましょう。仕上表は、建物の外と中の仕上げ(表面の材料)を表す図面です(建築工事設計図書作成基準の資料 資料2(7))。
仕上表は表の形をしていますが、国の工事の基準では図面の1つとして扱います(建築工事設計図書作成基準の資料 資料2)。
たとえば、仕上表で、事務室の壁の仕上げに「合成樹脂エマルションペイント塗り」とだけ書いてあるとしましょう。
合成樹脂エマルションペイントは塗料の名前で、「〜塗り」は、その塗料で塗る仕上げの名前です(公共建築工事標準仕様書 18.9.2)。後ろに付く「(EP)」は、標準仕様書でこの塗り方に添えられた略号です(同 目次)。
その塗り方の決まりは、標準仕様書の18章「塗装工事」の9節にあります(公共建築工事標準仕様書 目次)。

上の図の右にある18章9節の表で決めてあるのは、下塗り・中塗り・上塗りと塗る順番、使う塗料の規格、面積あたりに塗る量です(公共建築工事標準仕様書 18.9.2)。
塗る順番の組み合わせにはA種とB種があり、どちらにするかは「特記による」とされています。特記が無ければ、B種です(公共建築工事標準仕様書 18.9.2)。
図面を見れば工事の中身が全部分かる、と思うかもしれません。
けれども、図面にあるのは塗り方の名前だけです。塗る順番や量は、同じ名前の標準仕様書の節に書かれています。
反対に、図面と特記仕様書に書くのは、次の3つの場合です(建築工事設計図書作成基準 2.1(2))。
- 標準仕様書が「特記による」とした事項
- 標準仕様書に無い材料や施工方法を使う場合
- 標準仕様書の決まりとは別のやり方にする場合(標準仕様書の決まりを打ち消す場合)
図面に書く材料の名前の決まりは、「仕上表の下地と仕上げの表記|材料の名前の書き方」の記事で解説しています。
設計図書の種類は、国の工事では何があるのか
受注者が従う設計図書は、国の工事の基準では次の5つです(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(2))。
- 別冊の図面(その工事の図面をまとめたもの)
- 標準仕様書
- 特記仕様書
- 現場説明書
- 現場説明に対する質問回答書
法律の定義では、設計図書は図面と仕様書の2つでした。国の工事の基準は、図面と2つの仕様書に、現場説明書と質問回答書の2つを加えた5つを、設計図書としています(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(2))。
現場説明は、工事を請け負いたい人たちに向けて、工事を頼む前に、工事の現場で行う説明です(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「現場説明」)。
ふつうは工事を頼む側が開き、設計図書に表しきれない現場の様子や交通、工事に使う水や電気などを説明します(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「現場説明」)。その説明を、設計図書の一部として書面にしたものが現場説明書です(同)。
現場説明では、説明のほかに、質問と答えのやりとりも行います(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「現場説明」)。質問回答書は、現場説明に対して出た質問に答えた書類です(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(2))。
質問の中身は、現場説明書・特記仕様書・別冊の図面・標準仕様書の4つについてのものです(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(4))。

上の(2)の1つ目にある別冊の図面は、1つの工事でも何枚もあり、表紙から決まった順に並べます(建築工事設計図書作成基準 4.2)。その並び方は、「建築図面一式の並び|表紙・図面目録から設備図まで」の記事で確かめましょう。
設計図書の優先順位は、どうなっているのか
5つの書類の中身が食い違ったときにどれを先に使うか(優先順位)は、国の工事の基準では、次の表の順です(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(4))。
5つの書類は、お互いに足りない所を補い合います(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(4))。
ただ、5つは別々の書類なので、同じ事柄が2つの書類で違って書かれることもあるでしょう。標準仕様書は、書類のあいだに違いがある場合を考えて、使う順番を決めています(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(4))。
| 順番 | 書類 |
|---|---|
| 1 | 質問回答書(表の2〜5の書類についての質問への答え) |
| 2 | 現場説明書 |
| 3 | 特記仕様書 |
| 4 | 別冊の図面 |
| 5 | 標準仕様書 |
上の表で、別冊の図面は4番目です。
図面がいちばん先に来る、と思うかもしれません。けれども、図面より先に、質問回答書・現場説明書・特記仕様書の3つが来ます。
この順にした理由は、標準仕様書には書かれていません。1番目の質問回答書は、2〜5の書類について出た質問に答えたものです(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(4))。
標準仕様書は、いちばん最後です。
そのため、図面や特記仕様書で標準仕様書の決まりを打ち消すと、その工事ではそちらが先に使われます(公共建築工事標準仕様書 1.1.1(4)、建築工事設計図書作成基準 2.1(2))。
表の順番のとおりにするのが難しいとき、受注者は監督職員と話し合います。監督職員は、工事の契約書にもとづいて置かれる職員です(公共建築工事標準仕様書 1.1.2(ア))。
監督職員は、施工の段階ごとに、受注者から出された記録をもとに、工事が設計図書に合っているかを判断します(公共建築工事標準仕様書 1.1.2(カ))。
工事監理者は建築士法で決まった役目で、監督職員は国の工事の契約書にもとづく役目です。どちらも工事を設計図書と照らし合わせますが、もとになる決まりが違います。
協議は、受注者と監督職員が話し合って結論を出し、その結果を書面に残すことです(公共建築工事標準仕様書 1.1.2(オ))。表の順番のとおりにするのが難しいときは、この協議で決めます(同 1.1.1(4)・1.1.8(1))。
まとめ
設計図書は、工事に使う図面と仕様書の2つを指す語です。「図書」は、ここでは図面と書類のことです。
建築主が工事を頼み、設計者が設計図書を作ります。工事施工者はそれに従って工事をし、工事監理者は、工事を設計図書と照らし合わせて確かめます。
仕様書は、国の工事の基準では、共通の標準仕様書と、工事ごとの特記仕様書の2種類です。
図面には材料や工事のやり方の名前を書き、標準仕様書で決まっている事項は書きません。そのため、図面だけでは工事の中身が全部は分からないのです。
同じ基準は、設計図書を、別冊の図面・標準仕様書・特記仕様書・現場説明書・質問回答書の5つとしています。食い違ったときは、質問回答書から標準仕様書までの順で従います。
確かめの問い
読み終えたら、次の4つに答えてみてください。
- 設計図書の「図書」は、何のことですか。
- 工事を設計図書と照らし合わせ、そのとおりかを確かめるのは、誰ですか。
- 上の、仕上表の「仕上げ」の欄から標準仕様書の18章9節へ矢印を向けた図で、仕上表に「合成樹脂エマルションペイント塗り」とだけ書いてありました。塗り方の決まりは、どこにありますか。
- 国の工事の基準で、特記仕様書と別冊の図面の中身が食い違いました。どちらを先に使いますか。
答え
- 図面と書類のことです。設計図書では、図面と仕様書を指します。
- 工事監理者です。
- 標準仕様書の18章「塗装工事」の9節です。図面には名前だけが書かれています。
- 特記仕様書です。順番は、質問回答書・現場説明書・特記仕様書・別冊の図面・標準仕様書です。
続けて読む記事
この記事で名前だけ出た事柄は、次の記事で解説しています。
- 「建築図面とは何か|なぜ必要か・誰が使うか」:建築図面が何のためにあり、誰がいつ使うか
- 「建築図面の3つの種類|意匠図・構造図・設備図」:設計図書の図面が、どんな種類に分かれるか
- 「特記仕様書の読み方|工事概要・適用する仕様」:特記仕様書に、どんな項目が書かれるか
- 「建築図面一式の並び|表紙・図面目録から設備図まで」:図面と特記仕様書が、どんな順に並ぶか
- 「設計図・施工図・竣工図|図面の段階」:設計者の図面と、工事をする側が作る図面の違い
- 「仕上表の下地と仕上げの表記|材料の名前の書き方」:図面に書く材料の名前を、標準仕様書に合わせる書き方
*2026年9月29日・30日に原文で確かめた内容です。法律は「建築士法」「建築基準法」、国土交通省の資料は「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」「建築工事設計図書作成基準(令和2年改定)」「建築工事設計図書作成基準の資料(令和2年改定)」「建築設備工事設計図書作成基準(令和6年改定)」、語の意味は、「図面」と「仕様書」が「デジタル大辞泉」(図面・仕様書)、「図書」と「現寸図」が「精選版 日本国語大辞典」(図書・現寸図)、「現場説明」が「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典(コトバンク)」によります。
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