Enscapeの画作り・出力・アニメ・VRガイド|静止画から360°・VRまで
Enscape(設計ソフトに組み込んで使うリアルタイムレンダラー)でシーンを作ったあと、多くの人がつまずくのが「これをどう書き出せばいいのか」という段階です。静止画がほしいのか、動画で見せたいのか、施主にその場で体験してもらいたいのか。目的によって選ぶべき出力はまったく変わります。
この記事では、Enscapeの画作り(見た目の調整)から、静止画・動画・360°パノラマ・VR・Web共有までの出力方法を一望できるようにまとめました。それぞれの「どんなときに使うか」と「気をつけるポイント」を先に押さえ、具体的な設定手順は各テーマ別の記事へ案内します。
まだEnscapeそのものが初めての方は、全体像をEnscapeとは?Revit連携に優れたリアルタイムレンダリングツールで確認してから戻ってくると、この記事の位置づけがわかりやすくなります。
出力の前に、まず画作りで見栄えが決まる
書き出す前の画作り(明るさ・色味・構図の調整)で、完成画の印象の8割が決まります。同じモデルでも、光や露出の設定ひとつで「安っぽいCG」にも「実写のような一枚」にも変わるからです。
Enscapeでは、この画作りをVisual Settings(見た目をまとめて調整するパネル)で行います。露出(画面全体の明るさ)、ホワイトバランス(色の温かみ)、被写界深度(ピントのボケ方)などをスライダーで動かし、その場で結果を確認できます。
内観と外観で設定を使い分ける
内観(室内)と外観(建物の外観)では、光の入り方がまったく違います。室内は窓から差し込む光をどう見せるかが勝負で、外観は空や太陽の位置で印象が決まります。そのため、同じ設定を使い回すとどちらかが破綻しがちです。
そこで役立つのがプリセット(設定の保存機能)です。内観用・外観用と設定を分けて保存しておけば、シーンごとに一から調整し直す手間がなくなります。内観と外観での使い分けや、保存したプリセットの呼び出し方はEnscapeのVisual Settingsとプリセットの使い方|内観/外観の使い分けで解説しています。
写真的な構図はボケと画角で作る
「なんとなくCGっぽい」と感じる画は、全体にピントが合いすぎていることが多いです。実際のカメラは手前や奥がボケるので、被写界深度(ピントの合う範囲)を狭めるだけで、ぐっと写真らしくなります。
あわせて、画角(レンズの広さ)を意識すると構図が締まります。広角にしすぎると空間が歪み、望遠寄りにすると落ち着いた印象になります。このボケと画角を使った写真的な構図の作り方はEnscapeの被写界深度・画角で写真的な構図を作るでまとめています。
静止画の書き出し|1枚をきれいに仕上げる
プレゼン資料やポートフォリオに使う1枚は、Enscapeの静止画書き出しで用意します。画面のスクリーンショットではなく専用の書き出し機能を使うことで、高い解像度ときれいな仕上がりが得られるためです。
書き出しでまず決めたいのは解像度(画像のきめ細かさ)です。印刷に回すのか、Webに載せるだけなのかで必要なサイズが変わります。印刷用なら大きめ、Web用なら軽さを優先、という判断ができると無駄がありません。
複数アングルはバッチ出力でまとめて
物件を紹介するときは、リビング・玄関・外観と複数アングルが必要になります。1枚ずつ書き出すと時間がかかるので、Enscapeでは視点を登録してまとめて書き出すバッチ出力が用意されています。
さらに、背景を透明にできるアルファチャンネル(透過情報)付きで書き出せば、あとから空や人物を合成しやすくなります。この解像度の決め方・バッチ出力・アルファ付き書き出しはEnscapeの静止画レンダリングとバッチ出力|解像度・アルファで解説しています。
動画で空間を歩いて見せる
静止画では伝わらない「歩いたときの空間の広がり」は、動画(ウォークスルー)で見せると効果的です。玄関から入ってリビングへ抜ける、という体験そのものを1本の映像にできるからです。
Enscapeで動画を作る基本は、ビデオパス(カメラの通り道)を設定する方法です。通過させたいポイントをいくつか置くと、その間をカメラがなめらかに移動する映像ができあがります。
まずはビデオパスで1本作る
はじめての動画は、玄関・廊下・リビングといった見せたい場所に順番にポイントを置くところから始めます。ポイントの数や間隔で映像のテンポが変わるので、最初は少なめのポイントで短い動画を作ると失敗しにくいです。ビデオパスの基本の作り方はEnscapeのビデオパスでウォークスルー動画を作るで解説しています。
なめらかさはキーフレームの調整で決まる
作った動画が「カクカクする」「カメラが急に曲がる」と感じたら、キーフレーム(カメラの通過点ごとの設定)を調整します。各ポイントでの速度や向き、そこに留まる時間を細かく決めることで、映像のなめらかさが大きく変わります。この仕上げのコツはEnscapeの動画をなめらかに仕上げるキーフレーム編集のコツでまとめています。
360°パノラマで見回せる体験を渡す
その場で全方向を見回せる体験を渡したいなら、360°パノラマの書き出しが向いています。1枚の画像でありながら、上下左右をぐるりと見回せるため、動画ほど手間をかけずに空間の雰囲気を伝えられるからです。
パノラマにはモノ(片目用の1枚)とステレオ(左右の目で別々に見せて立体感を出す方式)の2種類があります。スマホやPCで見てもらうだけならモノ、VRゴーグルで奥行きも感じてほしいならステレオ、という選び方になります。モノ/ステレオ360°の書き出し方はEnscapeのパノラマ書き出し|モノ/ステレオ360°で解説しています。
VRで実寸の空間に立ってもらう
完成前の空間に施主が実際に立って歩ける、という体験を提供できるのがVR(仮想現実)です。図面や静止画では伝わりにくい天井の高さや部屋の広さを、実寸の感覚で確かめてもらえるため、打ち合わせでの合意形成がスムーズになります。
EnscapeはMeta Quest(Meta社のVRゴーグル)などに対応しています。ゴーグルとPCをつなぐ方法や接続の設定にはいくつか注意点があるので、はじめて試す前に手順を確認しておくと安心です。VRウォークスルーの設定や接続方法はEnscapeのVRウォークスルー設定|Meta Quest/リンク接続でまとめています。
Web共有で相手のPCに何も入れずに渡す
離れた施主や協力会社に見せたいときは、Web共有やスタンドアロン書き出しが便利です。相手にEnscapeや設計ソフトを入れてもらう必要がなく、URLやファイルを渡すだけで見てもらえるからです。
Web Standalone(ブラウザで開ける形式)で書き出せば、リンクを送るだけで相手のブラウザ上を歩き回ってもらえます。オフラインで渡したい場合は、単体で動くexeファイル(実行ファイル)としての書き出しも選べます。この2つの共有方法の使い分けはEnscapeのWeb Standalone/exe書き出しで施主に共有するで解説しています。
表現スタイルで伝えたい段階に合わせる
同じモデルでも、写真のようなリアルな仕上げが常に正解とは限りません。計画の初期段階では、あえて白模型(白一色の模型風)や水彩・鉛筆スケッチ風の表現にしたほうが、細部より「かたち」の議論に集中してもらえるからです。
Enscapeには、こうした建築表現向けのスタイルがいくつか用意されています。提案の段階に合わせて表現を切り替えると、相手に伝わりやすくなります。白模型・水彩・鉛筆といったスタイルの使い方はEnscapeの建築表現スタイル(白模型/水彩/鉛筆)の使い方でまとめています。
目的別|どの出力を選べばいいか
ここまでの出力を、目的から逆に選べるように整理します。「何を伝えたいか」が決まれば、選ぶべき出力は自然と絞り込めます。
| 伝えたいこと | 向いている出力 | 詳しい手順 |
|---|---|---|
| 1枚のきれいな完成イメージ | 静止画(高解像度・アルファ付き) | 静止画レンダリングとバッチ出力 |
| 空間を歩いた体験 | 動画(ウォークスルー) | ビデオパスでウォークスルー動画 |
| 手軽に全方向を見回せる雰囲気 | 360°パノラマ | パノラマ書き出し |
| 実寸で立って歩く没入体験 | VR | VRウォークスルー設定 |
| 相手のPCに何も入れず共有 | Web共有・exe書き出し | Web Standalone/exe書き出し |
| 計画初期の「かたち」の議論 | 表現スタイル(白模型など) | 建築表現スタイルの使い方 |
たとえば工務店の打ち合わせなら、静止画で完成イメージを見せつつ、その場でVRに切り替えて広さを体感してもらう、という組み合わせが効果的です。遠方の施主には、Web共有のリンクを事前に送っておくと、打ち合わせ当日の話が早く進みます。
Enscapeの出力を編集部が試してみました
各出力を実際の建築パース業務に当てはめてみると、優先すべきは「相手が受け取りやすいか」だというのが編集部の所感です。凝った動画やVRよりも、まずは静止画1枚とWeb共有のリンクを用意しておくほうが、多くの打ち合わせでは話が早く進みました。
編集部が試してみた範囲で印象に残ったのは、画作りの手戻りの少なさです。内観用と外観用のプリセットを最初に作っておくと、シーンが増えても書き出しのたびに調整をやり直さずに済み、静止画・動画・VRのどれに使っても色味が揃います。出力の種類を増やす前に、まず画作りの土台を固めておくと全体の作業が軽くなります。
応用・次の一歩|出力を組み合わせて提案力を上げる
出力は1種類に絞る必要はなく、組み合わせることで提案の説得力が上がります。静止画で第一印象をつくり、動画で空間の流れを見せ、VRで最終確認してもらう、という段階的な見せ方ができると、相手の納得度が変わってきます。
次の一歩としては、まず自分の案件で一番使う出力を1つ決め、その手順を各テーマ別記事で身につけるのがおすすめです。静止画中心の人はVisual Settingsと静止画書き出しから、体験を重視する人はVRとWeb共有から始めると、無理なく他の出力へ広げていけます。
Enscapeの操作そのものをこれから覚える段階なら、Enscapeの使い方入門|Revitプラグインのインストールから初回レンダリングで基本を押さえてから、この記事の各出力へ進むと迷いません。
この記事のまとめ
Enscapeの出力は、静止画・動画・360°パノラマ・VR・Web共有・表現スタイルの選択肢があり、「何を伝えたいか」で選ぶものが決まります。どれを選ぶ場合でも、書き出す前の画作り(明るさ・色味・構図)で完成画の印象が大きく変わるため、まずVisual Settingsとプリセットの土台を固めておくのが近道です。
自分の案件でよく使う出力を1つ決め、その手順を各テーマ別記事で身につけるところから始めてみてください。慣れてきたら静止画・動画・VRを組み合わせ、段階的に見せることで提案の説得力を高められます。
建築知識の教科書