Enscapeのビデオパスでウォークスルー動画を作る
設計中のモデルを施主に見せるとき、静止画のパースだけでは「実際に中を歩いたらどう見えるか」がなかなか伝わりません。Enscapeのビデオパス(カメラの通り道を指定して動画にする機能)を使えば、建物の中を歩き回るウォークスルー動画や、上空から敷地を巡るフライスルー動画を、追加ソフトなしで書き出せます。
とはいえ初めて触ると、どこにカメラを置けばいいのか、尺はどう決めるのかで手が止まりがちです。
この記事では、Enscapeのビデオエディタを開いてキーフレーム(カメラの通過点)を置き、尺を整えてMP4として書き出すまでの一連の流れを、初めての人が迷わない順番で解説します。なめらかな動きに仕上げる細かいコツや、画質を決めるVisual Settingsの調整は別記事に譲り、ここでは「まず1本、動く動画を完成させる」ことをゴールにします。
ウォークスルー動画とビデオパスの基本
Enscapeのウォークスルー動画は、カメラの通過点をいくつか置き、その間を自動でつないで動かす仕組みで作ります。この仕組みさえ押さえれば、以降の手順はどれも「通過点を置いて、速さを整えて、書き出す」の繰り返しです。まずは全体像と用語を軽く確認しておくと、以降の操作で迷いません。
ウォークスルーとフライスルーの違い
ウォークスルーとフライスルーは、カメラを置く高さと位置が違うだけで、作り方そのものは同じです。どちらを選ぶかは「内観を見せたいか、外観を見せたいか」で決めます。
- ウォークスルーは人の目線の高さでモデルの中を歩くように進む動画で、内観の見せ方に向いています
- フライスルーは上空や外周からモデルを俯瞰して巡る動画で、外観や敷地全体の把握に向いています
- 施主向けは「玄関から入って主要な部屋を巡る」ウォークスルーが定番です
たとえば新築住宅のプレゼンなら、玄関からリビング、水回りへと歩くウォークスルーが、暮らしの動線を伝えるのに向いています。敷地の広い施設なら、上空から全体を見せるフライスルーのほうが規模感が伝わります。目的が決まれば、あとの手順は共通です。
ビデオパスとキーフレームの考え方
ビデオパスは「カメラが通る1本の通り道」で、その通り道はキーフレームを置いて決めます。ここを理解しておくと、あとで動きを調整するときに何をいじればいいかが見えてきます。
- ビデオパス(video path)は、カメラが通る1本の通り道のことです
- キーフレーム(keyframe=カメラの通過点)を複数置くと、Enscapeがその間を自動でつないで滑らかな動きにします
- キーフレーム同士の間隔と全体の尺で、カメラが速く動くか遅く動くかが決まります
動画を作るにはキーフレームが最低2つ必要です(Chaos公式ドキュメント/2026年7月確認)。2つあれば「A地点からB地点へ動く」という最小の動画になります。通過点を増やすほど、複雑な通り道を描けるようになります。
ビデオエディタを開いてパスを作る
パス作りは、ビデオエディタを起動して見せたいアングルにカメラを合わせ、その位置でキーフレームを置く作業の繰り返しです。ここで置いた通過点が、そのまま動画の通り道になります。
ビデオエディタの起動とキーフレームの追加
キーフレームは「見せたいアングルにカメラを動かしてから置く」のが基本の流れです。カメラの位置と向きがそのまま記録されるので、置く前にアングルを決めておくと迷いません。
- Enscapeのウィンドウでビデオエディタを開きます(キーボードの「V」でも開けます)
- 見せたい最初のアングルにカメラを合わせ、追加ボタン(「+」)または「K」キーでキーフレームを置きます
- カメラを次に見せたい位置へ動かし、同じ操作でキーフレームを追加していきます
- これを繰り返して、玄関から廊下、リビングへと通過点をつないでいきます
操作手順の詳細はChaos公式ガイド(2026年7月確認)でも紹介されています。最初は3〜4点の少ない通過点で試すと、動きの感覚がつかみやすいです。
タイムラインで通過点を確認・調整する
タイムライン(時間軸の一覧)を見れば、置いた通過点を後から確認したり、間に差し込んだりできます。パスを作り直さずに微調整できるので、思ったアングルになっていないときに役立ちます。
- タイムライン(ドープシート)上でキーフレームは菱形(ダイヤ)で表示されます
- 菱形をクリックすると、その通過点のカメラ位置に移動して確認できます
- キーフレームとキーフレームの間をクリックすると、その位置に新しい通過点を差し込めます
- 3Dビュー上ではパスが矢印付きのチューブ状で表示され、カメラの進行方向を目視で確認できます
矢印付きのチューブが表示されるおかげで、カメラがどこをどう進むかを画面上で見ながら確認できます。壁に突っ込んでいたり遠回りしていたりする箇所は、この表示で気づけます。
各キーフレームで変えられる設定
通過点ごとに時刻や画角を変えると、動画の途中で表情を付けられます。ただし凝りすぎると尺が破綻しやすいので、まずは1本目では触らず、慣れてから使うのが安全です。
- Time of Day(時刻)をキーフレームごとに変えると、動画の途中で昼から夜へ移り変わる演出ができます
- Field of View(画角)を変えるとズームのような効果を付けられます
- 焦点(Focal Point)はVisual Settingsで被写界深度を有効化しておくと調整できます
通過点の設定を変えたら必ず「Update」を押して反映させます(Chaos公式ドキュメント/2026年7月確認)。Updateを押し忘れると変更が保存されず、せっかくの調整が動画に乗りません。設定を変えた直後にUpdateを押す習慣にしておくと、反映漏れを防げます。
尺を決めてプレビューで確認する
パスができたら、動画全体の長さ(尺)でカメラの速さを整え、書き出す前にプレビューで動きを確かめます。この段階でやり直しておくと、時間のかかる最終書き出しをムダにせずに済みます。
全体の尺とカメラの速さを整える
カメラの速さは「全体の尺」の数値で決まります。尺を長くすればゆっくり、短くすれば速くなるという関係なので、まずはここで全体のテンポを決めます。
- 全体の尺(total duration)の数値を大きくすると、カメラがゆっくり動いて落ち着いた印象になります
- 逆に尺を短くするとカメラが速く動き、テンポの良い動画になります
- 通過点ごとのタイムスタンプを手で編集すると、区間ごとに速さを変えられます(見せ場だけゆっくりなど)
施主向けのウォークスルーは、急がず全体をゆっくり見せる尺のほうが伝わりやすいです。カメラが速いと、見ている側が空間を把握しきれないまま次へ進んでしまうためです。まずは長めの尺から試して、速いと感じたら縮める順で調整すると失敗しにくいです。
プレビューで動きを確かめる
プレビュー再生を使うと、書き出す前に動きをその場で確認できます。壁への衝突や酔うような速さは、この段階でしか気づけないことが多いので必ず見ておきます。
- 「P」キーまたはプレビュー(再生ボタン)で、動きをリアルタイムに再生確認できます
- パスが壁や家具にぶつかっていないか、カメラの通り道を目視でチェックします
- カメラが速すぎて酔うような動きになっていないかも、この段階で確認します
気になる箇所は通過点を追加・移動して微調整します。プレビューは何度でも再生できるので、納得いくまで繰り返してから書き出しに進むと、やり直しの回数を減らせます。
パスを保存して失わないようにする
作ったパスはファイルに保存でき、あとで読み込んで再利用できます。ビデオエディタを閉じると作業内容が消えることがあるため、区切りのいいところで保存しておくと安心です。
- 作ったパスは「Save Path to file…」でファイルに保存できます
- 保存しておけば、同じプロジェクトや別プロジェクトで読み込んで再利用できます
- 複数のパスを1つのプロジェクト内に保存・読み込みして使い分けることもできます
たとえば「内観ウォークスルー」と「外観フライスルー」を別々のパスとして保存しておけば、施主の反応に応じて見せ分けられます。よく使う通り道は保存しておくと、次のプロジェクトでも下敷きにできて時短になります。
MP4として書き出す
書き出しは、解像度とフレームレート(1秒あたりのコマ数)を決めてExportボタンを押すだけです。高品質にするほど時間がかかるので、動きを確定させてから最終書き出しに進むのが安全です。
解像度とフレームレートを決める
解像度とフレームレートは、用途に合わせて決めます。施主共有ならフルHD・30FPSが扱いやすく、まずはこの組み合わせから始めると迷いません。
- 解像度はフルHD(1920×1080)が施主共有では扱いやすい定番です
- フレームレート(FPS)は、なめらかな映像なら30FPSが基準、より滑らかにしたい場合は60FPSが目安です(Chaos公式ガイド/2026年7月確認)
- SNS向けに1:1(1080×1080)など、用途に合わせた比率も選べます
FPSを上げるほど映像は滑らかになりますが、そのぶんコマ数が増えるため書き出し時間は長くなります。施主に見せるだけなら30FPSで十分きれいなので、まずは30FPSで試し、物足りなければ60FPSに上げる順がおすすめです。最初から60FPSにすると、試し書きのたびに待ち時間が増えてしまうためです。
書き出し設定と実行
書き出しはMP4形式が標準で、圧縮品質を上げるほど画質は保たれますがファイルは大きくなります。設定を決めたらExportボタンで生成します。
- 標準ではMP4形式で書き出され、圧縮品質(Compression Quality)を上げるとファイルは大きくなりますが画質の劣化が減ります
- 「Lossless(ロスレス)」を選ぶと、MP4ではなく連番の画像ファイルとして書き出せます(動画編集ソフトで後工程を組む場合向け)
- 設定を決めたらExport(書き出し)ボタンでMP4を生成します
Losslessは画質を最優先にしたいときや、After Effectsなどの編集ソフトに渡して手を加えたいときに向いています。施主にそのまま渡すだけなら、通常のMP4で問題ありません。目的が「共有」か「編集の素材づくり」かで選び分けると迷いません。
書き出し前に見直したいポイント
最終書き出しは時間がかかるため、その前に低い設定で試し書きしておくと失敗を減らせます。動きと構図が固まってから、品質を上げた本番の書き出しに進むのが安全な順番です。
- レンダリング品質を上げるほど1コマあたりの処理が重くなるため、まず低めの設定で試し書きすると失敗が減ります
- カメラの動きが速すぎる区間はモーションブラー(動きのブレ)が強く出ることがあり、気になる場合は無効化できます
- 最終書き出しは時間がかかるので、プレビューで動きを確定させてから実行するのが安全です
画質そのものを作り込むVisual Settingsの調整は、EnscapeのVisual Settingsとプリセットの使い方|内観/外観の使い分けで解説しています。動画の見栄えを一段引き上げたくなったら、こちらで内観・外観に合わせた設定を整えてから書き出すと仕上がりが変わります。
Enscapeのビデオパスを編集部が試してみました
Enscapeのビデオパスを短いウォークスルーで組んでみたところ、キーフレームを3点置くだけで動く動画になり、最初の1本にかかる時間の少なさが印象に残りました。編集部の所感としては、つまずきやすいのは「操作」ではなく「カメラの速さ」です。
最初はテンポよく見せたくて尺を短めにしたところ、プレビューで見返すと空間が把握できないほどカメラが速く、酔うような映像になりました。全体の尺を長めに取り直しただけで、同じパスでも落ち着いた見え方に変わったのが分かりやすい発見でした。
技術的な作り込みよりも、まず尺で速さを整えてからプレビューで確かめる順番を守るほうが、施主に見せられる1本に近づきます。凝った演出は後回しにして、動く動画を完成させることを先に済ませるのが、遠回りに見えて近道だと感じました。
応用と次の一歩|動画の質を上げる
基本の1本が作れたら、次は「なめらかさ」と「画質」の2方向で質を上げていくのが自然な流れです。どちらもこの記事の範囲外なので、目的に合う記事に進んでください。
カメラの動きがカクついたり、コーナーで不自然に曲がったりするのが気になってきたら、キーフレームの間隔や補間を細かく整える段階です。この調整はEnscapeの動画をなめらかに仕上げるキーフレーム編集のコツで解説しています。動きの質は、通過点の置き方ひとつで大きく変わります。
動画の画質そのものを内観・外観に合わせて作り込みたいなら、明るさや影の設定を整える段階です。こちらはEnscapeのVisual Settingsとプリセットの使い方|内観/外観の使い分けで解説しています。動く動画が作れるようになった今なら、設定を変えたときの変化も実感しやすいはずです。
まとめ
Enscapeのビデオパスは、追加ソフトなしで建築モデルのウォークスルー動画・フライスルー動画を作れる手軽な機能です。最後に、1本仕上げるまでの流れを振り返ります。
- ビデオエディタを開き、見せたいアングルごとにキーフレーム(通過点)を最低2つ以上置いてパスを作る
- タイムライン上で通過点を確認し、必要なら間に差し込んで通り道を整える
- 全体の尺でカメラの速さを決め、プレビューで壁への衝突や動きの速さを確認する
- 作ったパスは保存して失わないようにし、解像度・FPSを決めてExportでMP4に書き出す
まずは短いパスで1本書き出してみて、動く動画が作れる感覚をつかむのが上達の近道です。動きをさらになめらかに仕上げるコツや、画質を作り込む出力設定は、下記の記事で掘り下げています。
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