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3DCG · Enscape

Enscapeの建築表現スタイル(白模型/水彩/鉛筆)の使い方

編集部 読了 約16分

Enscape(設計ソフトに組み込んで使うリアルタイムレンダラー)は、写真のようなリアルなパースが得意です。ところが初期案を共有する場では、その作り込みがかえって邪魔になることがあります。まだ検討中の案なのに、リアルすぎると「もう決まった案」に見えてしまうからです。白模型のようにラフに見せたいのに、どこを触ればそうなるのか分からず手が止まる、という声も少なくありません。

この記事では、Enscapeの Visual Settings にある「Style」(Mode と Outlines)を使って、白模型調・線画・鉛筆スケッチ調・水彩調といった非写実(フォトリアルではなく、絵画や線画のように意図的に簡略化した表現)の見せ方を作る方法を解説します。あわせて、設計のどの段階でどのスタイルを選ぶかという Enscape 表現スタイルの使い分けまで整理します。

なお、露出・色・構図といった写実の画作りは範囲が広いため、EnscapeのVisual Settingsとプリセットの使い方|内観/外観の使い分けに切り分けています。この記事は「表現スタイルそのもの」に絞って進めます。


Enscapeの表現スタイルとは(写実だけでないもう一つの見せ方)

Enscapeの表現スタイルは、Visual Settings の Style セクションにある「Mode」ドロップダウンと「Outlines」スライダーで切り替えます。写真のようなリアルさとは逆に、あえて情報を削って構造や意匠に目を向けさせるための機能で、設計の初期ほど効果が大きくなります。まずは全体像として「どこにあるか」「なぜ使うか」を押さえておくと、後の設定がスムーズです。

表現スタイルの置き場所(Visual Settings の Style セクション)

表現スタイルを切り替えたいなら、まっさきに開くのが Visual Settings の Style セクションです。ここに「Outlines」スライダーと「Mode」ドロップダウンが並んでいます(出典: Chaos公式 Rendering Styles、2026年7月確認)。

Mode を切り替えると、ビューポート(Enscapeの表示画面)が即座に非写実表示へ変わります。これはEnscapeがリアルタイムレンダラーだからできることで、レンダリングの完了を待たずに見た目を試せます。白模型調にするか水彩調にするかをその場で見比べられるので、迷ったら片っ端から切り替えて反応を見るのが早道です。

決めたスタイルはプリセットとして保存でき、静止画・バッチ出力・パノラマ・動画にも同じスタイルを適用できます(出典: Chaos公式 Enscape features、2026年7月確認)。つまり一度作り込めば、同じ見せ方のまま複数の出力へ展開できます。

なぜ非写実スタイルを使うのか(初期案ほど効く理由)

非写実スタイルがいちばん力を発揮するのは、案がまだ固まっていない初期段階です。作り込んだ写実は「もう決まった案」に見えてしまい、初期の議論では施主や上司が細部に気を取られてしまいます。ラフな表現なら「まだ検討中です」という温度感が自然に伝わります。

公式も、装飾を削ってモデルの全体構造に集中させるためのモードだと位置づけています(出典: Chaos公式ブログ Artistic Visual Modes、2026年7月確認)。形やプロポーションを議論したい場面で、色や質感のノイズを減らせるのは大きな利点です。

編集部の見方では、写実版と非写実版を同じアングルで並べて見せると、合意形成が速くなるケースが多いといえます。「この段階ではまだラフ、最終はこう仕上がります」という流れを1枚で示せるためです。

スタイルは「段階」で選ぶ(設計フェーズとの対応)

表現スタイルは、設計のフェーズに合わせて選ぶと効果的です。基本設計からボリューム検討の段階では、白模型調(White / Polystyrol)で形だけを見せます。意匠の方向づけや提案の場面では、手描き調(Sketch / Watercolor)で雰囲気を伝えます。

実施設計以降や最終プレゼンでは、写実へ移行します。写実側の設定はEnscapeのVisual Settingsとプリセットの使い方|内観/外観の使い分けで解説しています。

同じ案でも段階ごとにスタイルを替えると、資料の説得力が上がります。ずっと同じ見せ方を続けるより、進み具合に合わせて見た目を変えるほうが、相手にプロセスが伝わりやすくなるからです。


白模型調をつくる(White Mode と Polystyrol)

白模型調は、材料の色を消して形と光だけで見せる表現です。Enscapeでは「White」と「Polystyrol」の2つのModeで作れます。Whiteは紙模型のように全材料を白くし、Polystyrolは模型用のスチロール材のように光をやわらかく透過させます。どちらも「意匠より前に、まず形」を見せたい場面の定番です。

White Mode(紙模型・スタディ模型調)

White Mode は、透明材と水を除いた全材料を白でレンダリングするモードです(出典: Chaos公式 Rendering Styles、2026年7月確認)。色の情報が消えるぶん、陰影とプロポーションが際立ち、スタディ模型(検討用の白い建築模型)の写真のような見え方になります。

真っ白でも面の凹凸はしっかり残ります。光沢やバンプ(表面の細かな凹凸を表す質感設定)などのパラメータは保持されるためです(出典: Chaos公式 Enscape features、2026年7月確認)。壁の目地や外壁の陰影は消えないので、のっぺりした立体にはなりません。

White Mode が向くのは、ボリューム検討・外形の合意形成・コンペの初期ボードです。色や素材の話をいったん脇に置いて、形そのものを議論したいときに選ぶと迷いが減ります。

Polystyrol Mode(スチロール模型・光を透かす表現)

Polystyrol Mode は、全面を実際のスチロール(発泡スチロール状の模型材料)のようにレンダリングし、薄い部分では太陽光が透けて散乱するモードです(出典: Chaos公式 Rendering Styles、2026年7月確認)。White Mode よりも「模型らしい柔らかさ」が出るのが特徴です。

このモードを選ぶと、光をどれだけ通すかを決める「Transmission(透過量)」の設定があらわれます(出典: Chaos公式 Rendering Styles、2026年7月確認)。透過量を上げると光が奥まで回り込み、庇の裏や開口まわりが明るくなります。

Polystyrol が向くのは、開口や庇まわりの光の入り方を見せたいときです。たとえば「大きな窓から入る光がどのくらい室内に届くか」を模型らしい柔らかさで見せたい場面に向いています。形だけでなく「光の抜け」も一緒に語れるのが White Mode との違いです。

白模型調を活かす調整(Outlinesと光の合わせ方)

白模型調は、次のセクションで解説する Outlines(輪郭線)を薄く重ねると、模型の稜線が締まって図面調に近づきます。真っ白だと形が読みにくいアングルでも、線がわずかに入るだけでエッジがはっきりします。

太陽高度や影の濃さは写実と同じ設定が効くので、時間帯を振って「最も形が読めるアングル」を探すのがコツです。朝夕の斜めの光は陰影を強くつくるため、ボリュームの起伏が伝わりやすくなります。

背景や添景(人や樹木などの添えもの)は減らしておくと、模型としての純度が上がります。情報を足しすぎると「模型を見せたいのか完成予想を見せたいのか」が曖昧になるためです。まずは要素を引き算する方向で整えると、白模型調の良さが素直に出ます。


線で見せる(Outlines とその効き方)

Outlines は、モデルの輪郭に線を足して図面調やアニメ調のメリハリを作るスライダーです。単独でも他のModeと重ねても使えます。線の太さを変えるだけで、同じアングルが「立体感を強調した表現」から「マンガのようなくっきり表現」まで動きます。白模型調やスケッチ調と組み合わせると効果が大きくなります。

Outlinesスライダーの基本(線の太さで印象が変わる)

Outlines は線の太さを調整するスライダーです(出典: Chaos公式 Rendering Styles、2026年7月確認)。太さの目安は None(なし)/ Thin(細い)/ Normal(標準)/ Thick(太い)といった段階で扱われます(出典: Chaos公式ブログ Artistic Visual Modes、2026年7月確認)。

太くすると輪郭が主張し、グラフィックで平面的な印象になります。細くすると自然な陰影を保ったまま形だけが締まります。「どのくらいイラストっぽくするか」を、このスライダー1本で決められるわけです。

どのModeに重ねると効くか(組み合わせの型)

Outlines は、重ねる相手によって役割が変わります。White に重ねると、白模型に線が乗り、図面と模型の中間のような表現になります。図面に慣れた相手には、このくらい線が効いた見せ方のほうが読み取りやすい傾向があります。

写実表示に弱い Outlines を重ねると、リアルさを保ちつつ輪郭だけ少し強調でき、製品カタログのような見せ方になります。太い Outlines を単独で使えば、平面的でグラフィックなアイソメ(立体を斜め上から見た図)やカット図に向きます。目的に応じて「どのModeへどれだけ重ねるか」を選ぶのがポイントです。

やりすぎないコツ(線が汚く見える境目)

線を強くしすぎると、かえって画面が汚れて見えます。細かい部材が多いモデルで太くしすぎると、線が密集して黒く潰れてしまうためです。まずは弱めから始めて、少しずつ上げていくと失敗しにくくなります。

カメラを引いた広い画角ほど、同じ設定でも線が細かく見えます。アングルを変えたら Outlines も微調整する前提で使うと安定します。線はあくまで補助であって、主役は形と光です。この優先順位を崩さないことが、線で締めた画をきれいに見せる決め手になります。


手描き調をつくる(Sketch モード:鉛筆・ペン・色鉛筆)

Sketch モードは、レンダリングをペンや鉛筆のスケッチに置き換える表現です。白黒の線画・グレースケール・色付きの3系統から選べます。線の太さやゆらぎ、ハッチングの陰影を足すことで、手で描いたようなラフさを出せます。まだ固めたくない初期提案を「絵として」共有したいときの主力になります。

Sketchモードの3系統(ペン/鉛筆/色鉛筆)

Sketch モードは、白黒の輪郭・グレースケール・色付きレンダリングとして調整できます(出典: Chaos公式 Rendering Styles、2026年7月確認)。具体的には Pen(白黒)/ Pencil(グレースケール)/ Colored Pencil(色付き)といったパレットで扱われます(出典: Chaos公式ブログ Artistic Visual Modes、2026年7月確認)。

3系統は雰囲気が違うので、伝えたいトーンで選び分けます。ペンは線が主体でシャープに決まり、鉛筆は陰影で柔らかく見えます。色鉛筆は雰囲気を少し残しつつラフに見せられるので、「白黒だと寂しいが写実ほど固めたくない」ときの中間解になります。

手描き感を左右する調整項目

手描きらしさは、いくつかの調整項目でコントロールできます。線の太さ(Outlines)と Jitter(ジッター=線をわざと揺らして手描きらしくする度合い)を組み合わせると、機械的でない線が作れます(出典: Chaos公式ブログ Artistic Visual Modes、2026年7月確認)。線がまっすぐすぎると印刷物のように見えるので、少し揺らすと人の手の感じが出ます。

Hatched shadows(ハッチング=斜線を重ねて陰影や質感を表す手描きの技法)を足すと、面の量感や奥行きが強調されます(出典: Chaos公式ブログ Artistic Visual Modes、2026年7月確認)。のっぺりした面に陰影の斜線が入ると、立体として読み取りやすくなります。ガラスを透明のまま描くか、線で表現するかも選べます。

Sketchが向く場面・向かない場面

Sketch モードが向くのは、初期のアイデア共有・意匠の方向づけ・プロセスを見せたい資料です。まだ決めきっていない段階で「こんな方向で考えています」と伝えるのに向いています。

逆に向かないのは、仕上げ材や質感を厳密に確認したい実施段階や、最終決裁向けの写実プレゼンです。スケッチ調はニュアンスを削るぶん、細かい素材感の確認には使えません。編集部の所感としては、同じアングルの写実版と鉛筆版を並べると、「検討中」と「確定」の温度差を伝えやすいといえます。


水彩調をつくる(Watercolor モード)

Watercolor モードは、ビューポートをそのままリアルタイムの水彩画に変え、にじみのある柔らかい表現を作るモードです。色やにじみの度合いを細かく調整できます。線画のスケッチよりもさらに雰囲気重視で、外構や街並みなど広い風景を情緒的に見せたいときに向きます。設定を詰めるほど、絵として整った提案ボードになります。

Watercolorモードの特徴

Watercolor モードは、ビューポートをリアルタイムの水彩画に変え、水彩効果で柔らかく混ざり合った見た目にします(出典: Chaos公式 Rendering Styles、2026年7月確認)。独自の色設定を持ち、色味やにじみを調整できます(出典: Chaos公式 Rendering Styles、2026年7月確認)。

線よりも面と色でまとめるモードなので、遠景や全体像の提示に強いのが特徴です。細部の線が主張しないぶん、街並みや外構のように要素が多い風景でも、うるさくならずにまとまります。「引きの絵で全体の雰囲気を見せたい」ときの第一候補になります。

水彩らしさを調整する項目

水彩らしさは、いくつかの項目で追い込めます。Color gradient(陰影部に色味を足して深みを出すグラデーション)で、発色と陰影のニュアンスを整えます(出典: Chaos公式ブログ Artistic Visual Modes、2026年7月確認)。陰影に色が入ると、単調な塗りではなく絵画のような深みが出ます。

Bleeding effect(にじみ=面と面の間で色がしみ出す度合い)で、水彩らしい境界を作ります(出典: Chaos公式ブログ Artistic Visual Modes、2026年7月確認)。このほか、ストロークの見え方や彩度・色温度で、全体の落ち着きや華やかさを調整します。ガラスを透明にするか塗りで見せるかも選べます。

水彩調を提案に使うコツ

水彩調は、情報を盛りすぎず余白を残すと良さが出ます。添景は最小限にして、絵として呼吸できる空間を残すのがコツです。要素を詰め込むと、水彩の柔らかさよりも情報量のほうが前に出てしまいます。

にじみは強くしすぎると形が読めなくなるので、まず弱めから始めて少しずつ上げます。何を描いているのか分からなくなっては本末転倒だからです。用途としては、外構・ランドスケープ・街並みの初期イメージ共有に向いています。硬い図面では伝わりにくい「雰囲気」を、1枚で伝えられます。


Enscapeの表現スタイルを編集部が試してみました

ここまでの各モードを、編集部で実際に切り替えながら試してみました。以下は、そのなかで気づいた実務上の所感です。あくまで一例ですが、使い分けのイメージづくりの参考にしてください。

まず効果が分かりやすかったのは、同じ住宅アングルを White → Sketch → 写実の順で並べたときです。White で形の合意を取り、Sketch で意匠の雰囲気を共有し、最後に写実で仕上げを見せる、という流れが1セットの資料として自然につながりました。段階が視覚的に分かるので、「今どの段階の話をしているか」が相手にも伝わりやすい印象でした。

一方でつまずきやすかったのは Outlines の強さです。細かい手すりや格子が多いモデルで太くしすぎると、線が黒く潰れて逆に読みにくくなりました。弱めから上げていくのがやはり安全だと感じます。Watercolor も同様で、にじみを効かせすぎると外構の樹木と建物の輪郭が溶けてしまい、形が判別しづらくなりました。

編集部の所感としては、表現スタイルは「1枚ずつ最高を狙う」より「段階の流れで見せる」ほうが、提案の場では効いてくるといえます。1モードを完璧に詰めることに時間をかけるより、White・Sketch・写実を手早く3枚そろえて並べたほうが、相手の理解が進みやすい場面が多くありました。


スタイルを使い分けるコツと出力・共有(まとめ)

表現スタイルは「一つに決める」ものではありません。設計段階と伝えたい相手に合わせて選び、同じスタイルのまま静止画・動画・パノラマまで書き出せるのが強みです。白模型調で形を、手描き調で雰囲気を見せ、最後は写実へ、という流れが基本形になります。ここでは選び分けと運用のコツをまとめます。

段階×相手で選ぶ早見(使い分けの結論)

どのスタイルを選ぶかは、設計段階と相手で決めると迷いません。目安を表にまとめます。

設計段階相手おすすめスタイル
形を詰める段階設計者・意思決定者White / Polystyrol(白模型調)
意匠・雰囲気を提案施主・チームSketch / Watercolor(手描き調)
決裁・最終プレゼン施主・決裁者写実(別記事の画作り設定)

相手が図面に慣れた実務者なら Outlines を効かせると読み取りやすくなります。施主に向けては Watercolor など柔らかい表現のほうが、専門知識なしでも雰囲気が伝わりやすくなります。写実側の詰め方はEnscapeのVisual Settingsとプリセットの使い方|内観/外観の使い分けで解説しています。

決めたスタイルを出力へ渡す

作り込んだスタイルは、そのまま出力に持ち込めます。設定した Style はプリセット保存でき、静止画・バッチ出力・パノラマ・動画に同じ表現で適用できます(出典: Chaos公式 Enscape features、2026年7月確認)。一度決めれば、複数の出力先で見た目を統一できます。

1つの案で「白模型調」「水彩調」「写実」をまとめてバッチ出力しておくと、提案の幅が一度に用意できます。打ち合わせの場で相手の反応に合わせて見せ方を切り替えられるので、資料づくりの手戻りが減ります。静止画やバッチの解像度・書き出しの詳細は、Enscapeの静止画レンダリングとバッチ出力|解像度・アルファで解説しています。

この記事の要点

最後に、この記事の要点を整理します。

  • 表現スタイルは Visual Settings の Style(Mode と Outlines)で切り替える。
  • 白模型調は White / Polystyrol、線画は Outlines、手描き調は Sketch / Watercolor で作る。
  • Polystyrol は Transmission、Sketch は太さ・Jitter・ハッチング、Watercolor は色・にじみで質感を追い込む。
  • 設計段階と相手に合わせてスタイルを選ぶと、合意形成が速くなる。
  • 写実の画作り(露出・色・構図)は別記事に切り分けて併用する。

Enscapeの表現スタイルは、写実の代わりではなく「見せたい段階に合わせるもう一つの引き出し」です。白模型調で形を固め、手描き調で雰囲気を共有し、最後に写実で仕上げる流れを1本の提案に組み込めば、相手はプロセスごと理解しやすくなります。次は写実側の設定や出力まわりを整えて、非写実と写実を自在に行き来できる状態を目指してみてください。