Lumionのフェーズ・バリエーション活用術|設計案を1シーンで比較提示する方法
「外壁材を3案見せたい」「昼と夕方どちらの見え方も出したい」。施主やクライアントへの提示では、こうした複数案の比較がよく求められます。ところが案ごとに別ファイルを保存してレンダリングし直すと、修正が入るたびに全案をやり直すことになり、管理がすぐに煩雑になります。
この記事では、Lumion(建築・土木向けのリアルタイムレンダリングソフト)上で複数の設計代替案を同一シーンにまとめ、施主やクライアントへ並べて比較提示するための管理方法を解説します。
Lumionのバリエーション機能やレイヤーをうまく使えば、1つのシーンの中に複数案を持たせて切り替えられます。共通部分は1回作れば済み、変えたいところだけ差し替えられるので、設計案の比較提示がぐっと楽になります。なお機能の名称や対応範囲はLumionのバージョンによって違う場合があるため、実際のメニュー表記は使用中のバージョンで確認しながら読み進めてください。
なぜ「1シーンで複数案」が設計提示で効くのか
案ごとに別ファイルを作ると、修正が入るたびに全ファイルをやり直すことになります。1つのシーンに複数案を持たせて切り替える方式なら、共通部分は1回作れば済み、変えたいところだけ差し替えられます。これが比較提示を速くする核心です。
別名保存で案を増やすと何が起きるか
案A・案B・案Cを別ファイルとして保存する方法は、一見わかりやすく見えます。しかし敷地・周辺環境・カメラといった共通要素が、3つのファイルに三重で存在することになります。同じものを3回管理するわけですから、手間もデータ量も増えていきます。
問題が表面化するのは修正が入ったときです。施主から「全部の案でカメラをもう少し引いてほしい」と言われると、3つのファイルすべてを開いて同じ修正を繰り返す必要があります。案が増えるほど作業量は比例して膨らみます。
さらに怖いのが修正の抜け漏れです。3ファイルのうち1つだけ直し忘れると、案Aと案Bでカメラ位置が微妙にずれ、施主が「案の違い」ではなく「撮り方の違い」を見せられてしまいます。これでは正しい比較になりません。
「同一シーンで切り替え」がもたらす3つの利点
同一シーンで案を切り替える方式には、実務でありがたい利点が3つあります。別ファイル運用のつらさが、そのまま裏返しになると考えるとわかりやすいです。
1つ目は、共通要素を1回で作り込めることです。地形・添景(人や車、植栽などの添え物)・カメラといった、どの案でも変わらない部分を一度だけ整えれば、全案でそのまま使い回せます。
2つ目は、変更したい要素だけを差分として管理できることです。外壁材だけ、あるいは建物の形だけ、といった変えたい部分に修正が閉じるので、直し忘れや余計な影響が起きにくくなります。
3つ目は、比較の条件が自然にそろうことです。同じカメラアングル・同じ光の条件で案を並べられるため、施主は「純粋に案の違いだけ」を見比べられます。条件がそろっているという事実が、意思決定の速さと納得感につながります。
どんな「違い」を比較提示したいかを最初に決める
作業に入る前に、何と何を比べたいのかをはっきりさせておくと、後で使う機能を選びやすくなります。比較したい「違いの種類」は、実務ではおおむね次の3つに分かれます。
- マテリアル違い(外壁材・屋根材・床材などの候補を比べる)
- 時間帯・天候違い(昼と夕景、晴れと曇りでの見え方を比べる)
- ボリューム・配置違い(建物の形そのものが異なるA案B案を比べる)
なぜ最初に決めるかというと、違いの種類によって向いている機能が変わるからです。見た目だけを差し替えたいならバリエーション、建物そのものを入れ替えたいならレイヤー、というように使う道具が分かれます。この使い分けは次の章で詳しく見ていきます。
Lumionで案を管理する3つの機能を使い分ける
Lumionには「1つのオブジェクトに複数の見た目を持たせるしくみ」と「要素をグループでオン・オフするしくみ」があり、比較したい違いの種類で使い分けます。自分の目的がどちらに当たるかを見極めるのが先です。
バリエーション(Variation Control)|1オブジェクトに複数バージョン
バリエーションは、同じオブジェクトの枠の中に複数のバージョン(見た目)を登録し、切り替えて表示する考え方です。位置や形はそのままで、見た目だけを変えたいときに向いています。
具体的には「同じ建物に外壁材A・B・Cを持たせる」「同じ家具の色違いを用意する」といった使い方です。オブジェクトの場所を動かさないので、切り替えても構図が崩れません。だからこそ、条件をそろえた比較提示と相性がよいわけです。
なお、この機能の正式な名称やメニュー上の位置はLumionのバージョンによって異なることがあります(要確認)。ここで説明する考え方は共通していますが、実際のボタン名は使用中のバージョンのメニューや公式ヘルプで確認してください。
レイヤー(Layers)|要素グループのオン・オフで案を切り替える
レイヤー(要素をまとめて表示・非表示できるグループ)は、オブジェクトを層に振り分け、層ごとに表示を切り替えるしくみです。見た目の差し替えでは表現できない「建物そのものの違い」を扱うときに活躍します。
たとえば「案A用の建物ボリュームはレイヤー1、案B用はレイヤー2」に分けておき、見せたい方のレイヤーだけを表示します。建物の形が根本から違うA案B案の比較は、この方式が扱いやすいです。
添景(人・車・植栽)を別のレイヤーにまとめておくのも有効です。添景は案に関係なく共通で見せたいことが多いので、常時表示のレイヤーに置いておけば、どの案に切り替えても同じ賑わいのまま比較できます。
フェーズ的な使い方|段階・状態の違いを見せる
「現況から計画後へ」「フェーズ1完成からフェーズ2完成へ」のように、時間や工程の段階を見せたい場面もあります。これは差し替えというより、状態のセットを切り替える発想でとらえると整理しやすいです。
実現方法はレイヤーの組み合わせです。「この段階ではこのレイヤー群を表示する」というルールを決めておけば、段階ごとの見え方を作れます。既存建物のレイヤーを消して計画建物のレイヤーを出せば、ビフォーアフターが成立します。
ここで注意したいのは、Lumionに「フェーズ」という名前の独立した専用機能があるかどうかはバージョンによって差があることです(要確認)。専用機能が見当たらない場合でも、いま説明したレイヤー運用で同じ結果を出せるので、まずはレイヤーで段階を表現する前提で進めると迷いません。
外壁材3案を1シーンで比較する手順
もっとも需要の多い「マテリアル違いの比較」を例に、共通シーンを1つ作り、外壁材だけを差し替えて3案を書き出すまでを追います。ポイントは「カメラと光を固定してから案を切り替える」ことです。ここが崩れると比較が成立しません。
STEP 1|共通シーンを先に完成させる
案を作り始める前に、どの案でも変わらない部分を完成させておきます。ここを固めておかないと、後から共通部分を直すたびに全案に影響が及んでしまうからです。
作り込むのは、地形・周辺環境・添景・カメラアングル・時間帯(光)までです。とくにカメラ位置は、施主に見せる画角をこの段階で確定しておきます。後の書き出しで全案が同じ画角になり、比較の土台がそろうためです。シーン全体の作り方に不安がある場合は、Lumionの使い方入門|インポートからレンダリングまでの基本手順で基礎からたどれます。
一方で、主役となる建物のマテリアル(材質の見た目)はまだ確定させません。ここがこれから比較する対象になるので、あえて未確定のまま外壁材の登録へ進みます。
STEP 2|外壁材のバリエーションを登録する
共通シーンができたら、比較したい外壁材を候補として登録していきます。まず建物の外壁マテリアルに候補A(例:ガルバリウム鋼板)を設定します。
次に、バリエーション機能でバージョンを追加し、候補B(例:木質サイディング)、候補C(例:タイル)を順に登録します。これで1つの建物の中に、3つの外壁の見た目が入った状態になります。位置は同じままなので、あとは切り替えるだけで案を見比べられます。
このとき、各バリエーションにわかりやすい名前を付けておくことをおすすめします。「候補A」ではなく「ガルバ」「木質」「タイル」のように中身がわかる名前にしておくと、あとで切り替えるときに迷わず選べるからです。案が増えるほど、この命名の差が効いてきます。
STEP 3|案を切り替えて確認・微調整する
登録が終わったら、いきなり書き出さずに一度すべての案を切り替えて確認します。材質によっては反射や粗さの見え方が破綻していることがあり、それに気づかず提示すると案そのものの評価がゆがむからです。
材ごとに映り込みや明るさの見え方は変わります。もし気になる案があっても、光の設定で調整してはいけません。光を動かすと全案の比較条件が崩れてしまうためです。調整が必要なときは、あくまでマテリアル側(反射・粗さ)で整えます。
提示の直前には、切り替えがスムーズに動くかを通しで一度確認しておくと安心です。施主の目の前で切り替えが引っかかると、せっかくの比較のテンポが悪くなります。
STEP 4|全案を同一画角で書き出す
最後に、カメラを固定したまま各案の静止画(フォト)を書き出します。カメラを動かさないことが、そろった比較画像を得る唯一の条件です。バリエーションを切り替えては書き出す、という作業を案の数だけ繰り返します。
ファイル名には案名を入れて管理します。たとえば「facade_A.png」「facade_B.png」のようにしておくと、あとで並べるときにどれがどの案かを取り違えません。
なお、静止画の書き出し設定や解像度といった基本操作は、Lumionの使い方入門|インポートからレンダリングまでの基本手順で解説しています。この記事では画角の固定と案の切り替えに集中します。
ボリューム違い(A案B案)をレイヤーで比較する
建物の形そのものが違うA案B案は、マテリアルの差し替えでは表現できません。それぞれのモデルを別のレイヤーに置き、見せたい方だけ表示する方式が扱いやすいです。ここではその段取りを見ていきます。
案ごとにモデルをレイヤー分けする
案Aの建物モデルをレイヤーAへ、案Bの建物モデルをレイヤーBへ配置します。形の異なるモデルをそれぞれ別の層に分けておくことで、あとで片方だけを見せられるようになります。
敷地・周辺・添景は共通レイヤーに置き、両案で使い回します。共通部分を分けておくのは、案を切り替えても背景がそろっていてほしいからです。ここが案ごとにばらばらだと、条件のそろわない比較になってしまいます。
このとき、モデルの原点や配置位置を両案でそろえておくと安心です。位置がずれていると、レイヤーを切り替えたときに建物が敷地に対して動いて見え、正しい比較になりません。
表示レイヤーを切り替えて確認する
配置ができたら、レイヤーの表示を切り替えて案を確認します。レイヤーAだけを表示すれば案A、レイヤーBだけを表示すれば案B、というシンプルな操作です。
このとき両方のレイヤーを同時に表示すると、案Aと案Bの建物が同じ場所に重なって表示されてしまいます。比較のときは必ずどちらか一方に絞ってください。共通レイヤー(敷地・添景)は常時表示のままで問題ありません。
現況から計画後への「段階比較」に応用する
このレイヤー分けの考え方は、ビフォーアフターの提示にもそのまま応用できます。「既存建物」レイヤーと「計画建物」レイヤーを用意し、表示を切り替えれば、現況から計画後への変化を見せられます。
造成前後の地形など、段階で見せたい要素も同じ発想でレイヤーに分けておけます。工程が3段階以上あるときは、どの段階でどのレイヤーを表示するかの組み合わせをメモに残しておくと運用が楽になります。切り替えるたびに設定を思い出す手間が省けるからです。
施主に伝わる比較提示にする5つのコツ
機能で案を作れても、見せ方がそろっていないと施主は違いを正しく比べられません。比較提示は「条件をそろえる」ことがすべてです。ここで実務の勘所を押さえておきます。
カメラ・光・天候を全案で固定する
比較で動かしてよいのは、比べたい要素だけです。それ以外のカメラ・光・天候が案ごとに変わると、施主に見せているのは「案の違い」ではなく「条件の違い」になってしまいます。
同一画角・同一時間帯で書き出すことを徹底してください。地味な原則ですが、比較提示の説得力はここでほぼ決まります。
案名とキャプションを画像に添える
書き出した画像には「案A:木質サイディング」のように、何が違うのかがひと目でわかる短い注記を添えます。画像だけ並べても、施主にはどこを見比べればよいのかが伝わりにくいからです。
キャプションがあれば、施主が打ち合わせのあとに画像を見返したときにも迷いません。後日の意思決定を支える小さな親切として効いてきます。
案は絞って見せる(多すぎない)
候補がたくさんあっても、実際に提示するのは2〜3案に絞ると施主は判断しやすくなります。選択肢が多すぎると、かえって決めきれなくなるからです。
編集部の所感としては、外壁材の提示は3案前後が施主の意思決定を早める、という声を制作現場で聞くことが多いです。作れる案の数と、見せるべき案の数は別ものとして考えると運用が締まります。
静止画で並べる/必要なら動画で切り替えを見せる
比較の基本は、同一画角の静止画を横並びにすることです。同じ構図で並ぶからこそ、違いが素直に伝わります。まずは静止画で比較を作るのが確実です。
案を動画でパンしながら切り替えて見せたい場合もあります。その作り方はLumionのカメラ・構図設定で伝わるパースにするコツで構図づくりを、動画としての書き出しは別途プレゼン動画の記事で解説していく予定です。この記事では静止画比較を主に扱います。
データを重くしすぎない管理術
バリエーションやレイヤーを増やすほど、シーンのデータは重くなっていきます。動作が重いと切り替えや書き出しのテンポが落ちるので、使わない候補はこまめに整理しておくのがコツです。
案が固まったら、採用しなかったバリエーションを削除して最終シーンを軽く保ちます。提示が終わったシーンは意外と長く使い回すことがあるので、身軽にしておくと後々の作業が快適になります。
Lumionのバリエーション管理を編集部が使ってみました
ここまでの手順を、編集部が実際の住宅案件を想定してひととおり試してみました。結論から言うと、最も効果を感じたのは「共通シーンを先に固める」というSTEP 1の順番でした。
最初に地形・添景・カメラまで作り込んでから外壁材のバリエーションを登録すると、案を切り替えても構図がまったくぶれません。試しに共通シーンが未完成のまま案を増やしてみたところ、途中でカメラを直したくなり、結局その修正が全案の見え方に影響してやり直しになりました。順番を守るだけで手戻りが目に見えて減る、というのが実際に触ってみた所感です。
もう1点、切り替えの命名は想像以上に効きました。「候補A・B・C」のまま進めると、提示中に「これはどの材だったか」と一瞬詰まります。「ガルバ・木質・タイル」と中身の名前にしておくと、施主の質問にその場で即答できました。細かいことのようで、打ち合わせのテンポを保つ効果は大きいと感じています。
なお、メニューの名称や操作位置はバージョンによって表記が違う箇所がありました。考え方はどのバージョンでも共通ですが、ボタンの位置だけは使用中のバージョンで一度確認しておくと、当日あわてずに済みます。
比較提示を武器にする|次の一歩と活用シーン
複数案を1シーンで管理できるようになると、提示の場そのものが変わります。ここからは、身につけた比較提示をどんな場面に広げられるかを見ていきます。
もっとも効くのは、施主との打ち合わせをその場で前に進める使い方です。「外壁は木質とタイルで迷っている」と言われたら、事前に用意した比較画像を並べて見せられます。条件がそろった画像なら、施主は材の印象だけに集中して選べるので、宿題にせずその場で方向性が決まりやすくなります。
工程が長い案件では、段階比較が提案の説得力になります。現況・造成後・完成の3段階をレイヤーで切り替えて見せれば、事業のストーリーが1つのシーンで伝わります。造成前後の地形変化まで見せられると、施主だけでなく行政や近隣への説明資料としても使えます。
さらに一歩進めるなら、静止画の比較から動画での切り替え提示へ広げる道があります。同一画角のまま案を切り替える動画は、静止画以上に「同じ場所で材だけが変わる」感覚を伝えられます。動画としての見せ方はLumionのカメラ・構図設定で伝わるパースにするコツで構図を固めてから取り組むと、比較のテンポがきれいにまとまります。
まとめ|複数案は「共通を1回、差分だけ切り替え」で管理する
Lumionでの複数案の比較提示は、いくつかの原則を押さえるだけで一気に扱いやすくなります。要点を整理します。
- 別ファイルの量産をやめ、1シーンに複数案を持たせると修正が局所化して速くなります
- マテリアル違いはバリエーション、ボリューム違いや段階違いはレイヤーで使い分けます
- 比較提示はカメラと光を固定し、変えたい要素だけを動かすのが鉄則です
- 案名やキャプションを添え、提示は2〜3案に絞ると施主の判断が早まります
- 機能の名称は版によって差があるため、実機のメニュー表記は使用中のバージョンで確認します
複数案の管理は、慣れれば提案の質と速さを同時に引き上げてくれます。まずは外壁材3案の比較から試し、扱いに慣れたら段階比較や動画提示へと広げてみてください。
建築知識の教科書