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AutoCADハッチングのやり方|断面・材料を実務で表現する5つの基本

編集部 読了 約16分

AutoCADハッチングのやり方|断面・材料を実務で表現する5つの基本

図面の中で「ここはコンクリート」「この部分が切り口」と伝えたいとき、頼りになるのがAutoCADのハッチング(閉じた領域を模様やべた塗りで埋める機能)です。線だけの図面に材料や断面の情報を重ねられるため、施工図や詳細図で使う基本操作のひとつ。ところが実際に使うと、「囲まれていません」と表示されて塗れない、模様が真っ黒に潰れる、描いたはずの塗りが消える、といったつまずきが次々に出てきます。

この記事では、AutoCADのハッチングと塗りつぶしを「断面・材料をどう表現するか」という目的から順に解説します。基本手順、材料ごとのパターン選び、尺度で密度を整えるコツ、境界が塗れないときの対処、そして後から直す方法まで。数値やコマンドの仕様は公式ヘルプ(help.autodesk.com、2026年7月20日確認)で確認しています。

ハッチングは「領域を塗って断面・材料を伝える」機能

ハッチングは、閉じた領域を模様やべた塗りで埋めて、その部分が何の材料か・どこが切り口かを図面の読み手に見分けてもらう機能です。大事なのは、コマンド操作を覚えること自体ではありません。「この領域で何を伝えたいか」から逆算して塗りを選ぶと、図面がぐっと伝わるものになります。

何を塗り、何を伝えるのか

ハッチングの目的は、線だけでは表せない「面の情報」を図面にのせることにあります。断面図で構造材の切り口を示す、平面図で仕上げ材の範囲を示す。こうした場面で使います。

塗りの種類は大きく3系統に分かれます。線の模様で材料を表す「ハッチパターン」、単色で塗りつぶす「ソリッド(べた塗り)」、そして濃淡がなめらかに変化する「グラデーション」です(出典: About Hatch Patterns and Fills、2026年7月20日確認)。使うコマンドは、模様とべた塗りが HATCH、濃淡が GRADIENT。どちらもリボン(画面上部に機能ボタンを並べた帯状のメニュー)の「ハッチング」パネルから呼び出せます。

塗る前提は「境界が閉じていること」

ハッチングで最初に押さえたいのは、塗る領域が完全に囲まれていないと塗れない、という前提です。AutoCADは、指定した点を囲む境界を探して塗ります。そのため境界の線が1本でも途切れていると、領域として認識できません。

では塗りの成否は何で決まるのでしょうか。答えは「境界となる図形をきちんと閉じて描けているか」です。境界になる線・ポリライン(連続した線分をひとつながりにした図形)・長方形の描き方は基本作図コマンド|線・円・円弧・ポリライン・長方形で、端点をぴったり一致させて閉じる方法は寸法どおりに正確に描く|座標入力・オブジェクトスナップ・トラッキングで解説しています。塗りがうまくいかないときは、この「境界を閉じる」側に原因があることがほとんどです。

基本手順|内部点クリックとオブジェクト選択

ハッチングの塗り方は、大きく2通り。囲まれた領域の内側を1回クリックする方法と、閉じた図形そのものを選ぶ方法です。どちらも HATCH から使えるので、図面の状況に合わせて選びます。

内部の点をクリックして塗る(Pick Internal Point)

もっともよく使うのが、塗りたい領域の内側を1点クリックする方法です。HATCH を実行してパターンを選び、領域の内部で点をクリックすると、その点を囲む境界が自動で検出されて塗られます(出典: HATCH (Command)、2026年7月20日確認)。境界を自分で選ばなくてよいため、複雑な形の領域でもすばやく塗れます。

複数の領域を続けてクリックすれば、一度にまとめて塗れます。このとき、まとめて塗った領域は既定で1つのハッチとして扱われる点に注意してください。領域ごとに別々のオブジェクトにしたいなら、「Separate Hatches(ハッチの分離)」を選んでおきます。後から特定の1か所だけを編集・削除したい場合は、分離しておくと扱いやすくなります。

オブジェクトを選んで塗る(Select Objects)

閉じたポリラインや円のように、それ自体が閉じた図形になっているものは、その図形を直接選んで境界にできます。HATCH の「オブジェクト選択」で対象をクリックすると、輪郭の内側が塗られます。

では内部点クリックと、どう使い分けるとよいのでしょうか。内部点クリックは周囲の境界を自動で探すため、線の多い大きな図面では時間がかかることがあります。境界がはっきりした閉図形なら、オブジェクト選択のほうが処理も軽く、意図した範囲を確実に塗れます。円形の柱や独立した部材を塗るときに向いた使い方です。

パターン・ソリッド・グラデーションの切り替え

塗りの種類は、リボンやコマンドウィンドウで切り替えます。ハッチパターンには3タイプあります。あらかじめ用意された「定義済み(Predefined)」、いま設定している線種をもとにした「ユーザー定義(User-defined)」、外部のPATファイルから読み込む「カスタム(Custom)」です(出典: Hatch Tab (Hatch and Gradient Dialog Box)、2026年7月20日確認)。

べた塗りにしたいときは「Solid」、濃淡で見せたいときは GRADIENT を使います。グラデーションは1色の濃淡でも、2色の遷移でも表現できます。ふだんの材料表現なら、パターンかソリッドで十分。グラデーションはプレゼン用の面表現などに絞って使うのがおすすめです。

断面・材料はパターンで描き分ける

材料を伝えるハッチングでは、「何の材料か」と「どの定義済みパターンか」をセットで覚えておくと迷いません。AutoCADには材料別のパターンが標準で用意されています。その数は200超。acad.pat / acadiso.pat というファイルに収められています。

代表的な材料パターンの対応

建築や機械の図面でよく使う材料と、対応する定義済みパターン名を表にまとめました。ANSI系は主に断面の切り口、AR系は建築材料の断面・立面に使われます(出典: About Hatch Pattern Definitions / ANSI材料対応の公式フォーラム回答、いずれも2026年7月20日確認)。

材料パターン名主な用途
鉄・れんが・石など(断面全般)ANSI31断面
ANSI32断面
コンクリートAR-CONC断面・仕上げ
砂・モルタル下地AR-SAND断面
コンクリートブロック立面(8×16)AR-B816立面
コンクリートブロック立面(8×8)AR-B88立面
れんが立面(stretcher bond)AR-BRSTD立面
れんが立面(english bond)AR-BRELM立面

表のなかでも押さえておきたいのがANSI31です。右上がりの斜線というシンプルな模様ですが、鉄・れんが・石など複数の材料を表す汎用パターンとして幅広く使われます。どの材料をどのパターンで表すかは、この対応を土台にしつつ、次に述べる図面規約に合わせて決めていきましょう。

社内規約・図面標準に合わせる

材料パターンは「見た目の好み」ではなく「図面規約との一致」で選びます。事務所や元請けごとに、この材料はこのパターン、という取り決めがあることが多いためです。規約に合わせておけば、図面がそのまま読み手に伝わります。逆に自己流のパターンを使うと、同じ図面を見た人が材料を取り違えるおそれも。

規約用に配布されたPATファイルがある場合は、カスタムパターンとして読み込んで使います。すでに図面内にある同じ材料の塗りとそろえたいなら、「プロパティの継承(Inherit Properties)」が便利です。既存ハッチの設定(パターン・尺度・角度・原点)を吸い取って、新しい領域に同じ塗りを再現できます(出典: Matching Properties、2026年7月20日確認)。一般的な「プロパティコピー(Match Properties)」と違い、パターンの原点までそろうのが特徴です。図面全体で材料表現の見た目が統一され、試し塗りのやり直しも減ります。

尺度・角度で密度を整える

ハッチングの見た目を左右する最大の要素が尺度です。尺度はパターンの拡大・縮小をコントロールし、その結果として線の間隔、つまり模様の密度が変わります。図面の縮尺に合わせて尺度を調整すれば、材料の見た目の密度を図面全体でそろえられます。

尺度を上げると密度は下がる(HPSCALE)

尺度は、パターンを何倍に拡大するかを表す値です。この値はシステム変数(AutoCADの設定を保持する値)HPSCALE に記録されます。尺度を上げるとパターンが拡大し、線と線の間隔は広がる方向。密度は下がります。逆に尺度を下げると間隔がつまり、密度が上がります(出典: About Hatch Pattern Scaling、2026年7月20日確認)。

つまずきやすいのは、この関係を知らずに「真っ黒に潰れた」「スカスカで見えない」となる場面ではないでしょうか。真っ黒に潰れるのは、尺度が小さすぎて線が詰まりすぎているサイン。スカスカなのは、尺度が大きすぎて線がまばらになっているサインです。適正な尺度は図面の縮尺によって変わり、一律の正解はありません。1回で決めようとせず、試し塗りをして密度を目で確かめながら合わせていきましょう。

なお、極端に小さい尺度は線を増やしすぎる原因になります。これを防ぐため、1回の操作で作るハッチ線の上限を決める HPMAXLINES があり、この上限を超えるとエラーになることがあります。

角度と、異尺度図面での注釈ハッチ

模様の向きは角度で調整します。角度はシステム変数 HPANG に0〜359度で記録されます。同じ材料でも、部材の向きに合わせて模様を傾けられる点が便利です。斜めの部材にまっすぐな模様を入れると不自然に見えるため、部材の傾きに合わせて角度を変えると図面がすっきりします。

尺度の違うビューを1枚のレイアウトに並べる図面では、「注釈ハッチ(Annotative)」が管理を楽にしてくれます。注釈ハッチにすると、レイアウト上の各ビューポート(図面を表示する枠)の尺度に合わせて、模様の密度が自動で追従します。尺度ごとに同じハッチを何枚も複製せずに済み、修正のたびに全部を直す手間も最小限。

境界が塗れない時と、変更に追従させる関連付け

ハッチングで最も多いトラブルが「囲まれていません」の表示。原因は、境界のわずかなすき間にあります。そして、境界を後から動かしても塗りがついてくる「関連付け」を使えば、設計変更が多い段階でも手戻りを減らせます。この2つを押さえるだけで、塗りの作業はぐっと安定するのではないでしょうか。

「囲まれていません」の原因はすき間

「囲まれていません」と出て手が止まった経験は、ないでしょうか。境界が閉じていないと塗れないのは、AutoCADが既定で「すき間ゼロの完全に閉じた領域」を要求するためです。この許容量は「すき間許容(Gap Tolerance)」で決まり、既定値は0。つまり、すき間があってはいけない設定になっています(出典: HATCH (Command)、2026年7月20日確認)。端点がほんの少し離れているだけでも、領域として認識されません。

すき間許容は0〜5000(図面単位)の範囲で指定でき、指定した値以下のすき間を「閉じている」とみなして塗れるようになります。ただし、この値を安易に上げるのはおすすめしません。本来つながっていない線まで境界とみなして、意図しない領域まで塗ってしまうことがあるからです。おすすめは、すき間許容に頼らず端点そのものを一致させて直す方法です。トリムや延長、結合で境界のすき間を閉じる操作は修正コマンドを使いこなす|移動・複写・オフセット・トリム・フィレットで解説しています。

島検出で開口・内側を塗り分ける

領域の中に、さらに別の領域があるときはどうでしょうか。そんなときは、島検出(Island Detection)で塗り分けます。外側の境界の内側にある領域を「島」として認識し、その扱いを「標準(Normal)」「外側(Outer)」「無視(Ignore)」から選べます。公式ヘルプが推奨として示すのは「外側(Outer)」です(出典: HATCH (Command)、2026年7月20日確認)。

この島検出があるおかげで、「壁の断面だけを塗って、窓やドアの開口部分は抜く」といった実際の図面らしい塗り分けができます。文字を置いた部分を自動で抜いてくれる動きも、この島検出によるものです。まず既定の「外側」で塗ってみて、思ったとおりに抜けなければ方式を切り替えます。この順で試すと迷いにくくなります。

関連付けで境界変更に追従(HPASSOC)

関連付けとは、境界の図形を変更するとハッチの塗りも自動で更新されるしくみです。システム変数 HPASSOC で制御します(出典: HATCHEDIT (Command)、2026年7月20日確認)。たとえば部屋の壁を少し動かしたとき、関連付けが有効なら塗りも一緒に広がったり縮んだり。境界の変化に塗りがついてきます。

設計の初期段階のように変更が何度も入る場面では、関連付けを有効にしておくと塗り直しの手間が減ります。一方で、境界の線をあとで消す場合や、ハッチの数が多くて動作を軽くしたい場合は、関連付けを切って塗りを固定するほうが安全なこともあります。作業の段階に応じて使い分けるのがコツです。

後から直す・見せ方を整える

一度描いたハッチングは、パターンも尺度も範囲も、後から自由に変更できます。加えて、塗りが「消えた」ように見えるトラブル。これには境界エラーとは別の原因があり、切り分けて確認すると解決が早くなります。

HATCHEDITでパターン・尺度・角度を変更

既存のハッチを直すときは HATCHEDIT の出番です。パターン・尺度・角度・関連付けの有無を後から変更でき、作図をやり直さずに見た目を調整できます(出典: HATCHEDIT (Command)、2026年7月20日確認)。ハッチをダブルクリックしても、同じ編集画面が開きます。

塗る範囲そのものを変えたいときは、境界の追加・削除(Add / Remove Boundaries)が使えます。これで、描いたハッチを一部だけ除外したり、隣の領域まで広げたり。「塗りすぎた部分だけ消したい」「範囲を後から変えたい」という場面は、この境界編集で対応します。さらに表示順序(Draw Order)でハッチを背面に送れば、寸法や文字が塗りに隠れてしまうのも防げます。

塗りが表示・印刷されない時の確認(FILLMODE・画層)

描いたはずの塗りが枠線だけになったら、境界エラーとは別の原因を疑います。まず確認したいのがシステム変数 FILLMODE です。この値が1なら塗りが表示され、0だと塗りが表示されず枠線だけになります(出典: FILLMODE (System Variable)、2026年7月20日確認)。ハッチだけでなく、2Dソリッドや太いポリラインの塗りも同じ影響を受ける対象です。値を1に戻しても表示が変わらない場合は、REGEN または REGENALL で図面を再作図すると反映されます。

尺度が大きすぎて模様がスカスカになり、実質的に見えていないだけ、というケースも「消えた」に含まれます。この場合は、尺度を下げて確認します。また、塗りを置いた画層が対象のビューポートでフリーズ(非表示)になっていないかも、確認しておきたいポイントです。画層ごとの表示制御のくわしい扱いは、画層管理の範囲になります。

グラデーションはプレゼン・ゾーニングで使う

グラデーションは、面を濃淡で見せたいときに向いた塗り方です。1色の濃淡でも2色の遷移でも表現でき、円柱や球のような立体感を出す遷移も選べます。ゾーニング図で用途エリアを色分けしたり、プレゼン図で面にやわらかい陰影をつけたり。そんな場面で効果を発揮します。

一方、施工用の実施図面にグラデーションは向きません。実施図面では材料が正確に読み取れることが優先されるため、模様のパターンやソリッドのほうが伝わります。グラデーションは「見せるための図面」に絞って使う。そう割り切ると、図面の役割に合った表現になります。

ハッチングでつまずく理由についての編集部の見解

公式ドキュメントとユーザーコミュニティの報告を読み解くと、ハッチングでつまずく理由の大半は、機能そのものではなく境界の作り方にあると考えられます。ここでは、調査から見えてきた「なぜ詰まるのか」を、編集部の見立てとしてまとめます。

初心者が最初に詰まるのは「囲まれていません」の表示だと、公式フォーラムの質問傾向からもうかがえます。ここで見落とされがちなのは、これが塗りの機能の問題ではないという点。境界がわずかに開いているという、作図側の問題です。塗りのコマンドをいくら覚えても、境界がほんの少し開いていれば領域は認識されません。

だからこそ、すき間許容を上げて無理に塗るより、端点を正確に一致させて直すほうが、後々の図面の正確さにつながると編集部は考えます。ハッチのつまずきを「塗りのコマンドの使い方」ではなく「正確に描く技術」の問題として捉え直す。この視点の切り替えが、解決への近道ではないでしょうか。

矩計図での活用シーンと次に学ぶ作図スキル

ここまでの内容を実務に取り入れると、どんな場面で効いてくるのでしょうか。わかりやすいのが、住宅の矩計図(建物を垂直に切った断面の詳細図)です。基礎・土間コンクリート・断熱材・仕上げを、それぞれの材料パターンで塗り分ける場面を思い浮かべてみてください。

境界を正確に閉じる習慣ができていれば、「囲まれていません」で止まりません。同じ材料をプロパティの継承でそろえれば、コンクリートの見た目は図面全体でぴたりと統一。設計変更で壁位置が動いても、関連付けを有効にしておけば塗りが追従し、塗り直しの時間がまるごと浮きます。

こうして塗りの土台ができると、次に気になってくるのが作図全体の効率化ではないでしょうか。境界を素早く正確に描く作図・修正コマンド、図面を整理する画層管理、そしてレイアウトと印刷へ。学ぶ範囲は自然につながっていきます。ハッチングは、その入口として「面で情報を伝える」感覚を養える操作です。

まとめ|断面・材料表現の3ステップ

AutoCADのハッチングは、3つのステップで考えると迷いません。まず境界を正しく閉じること、次に材料に合うパターンと尺度を選ぶこと、そして関連付けで変更に追従させることです。塗れないトラブルの多くは1つ目の「境界を閉じる」で解決し、見た目のトラブルの多くは2つ目の「尺度」で整います。

塗りが消えたように見えたら、まず FILLMODE を確認し、次に尺度と画層の表示を見直しましょう。材料パターンは図面規約に合わせて選ぶのが基本です。同じ材料をプロパティの継承でそろえれば、図面全体の見た目がまとまります。グラデーションはプレゼンやゾーニングに絞るのがおすすめです。そしてハッチは専用の画層に分けて置くと、表示制御や印刷の管理もぐっと楽になります。

塗りの前段にある「境界を正確に描いて閉じる」技術を固めれば、ハッチングのつまずきはほとんど消えます。次は、境界そのものを確実に描く力を身につけていきましょう。