PERSC JOURNAL DB Manual Course

運営者・お問い合わせ
3DCG · V-Ray

VRayDecalで標識・汚しを貼る|VRayDirtで接触陰影を足すディテール実務

編集部 読了 約12分

建築パースが「なんとなくのっぺり見える」とき、足りていないのは細部の情報量と、ものが接している部分の陰影であることがほとんどです。壁に案内標識が1枚あるだけ、床と壁の境目にうっすら影があるだけで、画の説得力は大きく変わります。その2つを担うのが、面に画像を投影するVRayDecal(UVを作り直さずにマテリアルを重ねる機能)と、くぼみに陰影を足すVRayDirt(接触部を暗くするテクスチャ)です。

この記事では、VRayDecalで標識・ロゴ・汚しを貼る手順、VRayDirtで接地部の陰影を作る手順、そして2つの使い分けと注意点までを、Chaos公式ドキュメント(2026年7月時点)の仕様に沿って解説しています。

VRayDecalとVRayDirtで細部と接地陰影を足す

この2つは名前が似ていますが、役割はまったく別です。VRayDecalは「面に画像を貼る」道具、VRayDirtは「くぼみに影を足す」道具で、両方そろってはじめて細部の作り込みが完成します。どちらか片方だけでは、画の説得力は途中までしか上がりません。

VRayDecalでできること

VRayDecalは、あるマテリアルを別のマテリアルの上から投影する機能です。Chaos公式は「対象のUVセットに関わらずマテリアルを投影できる」と説明しています(VRayDecal|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。

ここが初心者にとって大きな利点です。ふつうテクスチャ(表面に貼る画像)を面に貼るには、UV(3Dモデルの表面を平面に展開した座標)を整える作業が必要になります。標識1枚を貼るためにモデル全体のUVを作り直すのは、手間が見合いません。VRayDecalなら、貼りたい場所に投影用の枠を置くだけで済むので、案内標識・企業ロゴ・床のシールといった「一部分だけの画像」を素早く足せます。

VRayDirtでできること

VRayDirtは、くぼみ(クレビス)にたまる汚れや、ものが接している部分の陰影を作るテクスチャマップです。公式では「くぼみの汚れの表現や、アンビエントオクルージョンのパスを作る」用途が挙げられています(VRayDirt|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。

アンビエントオクルージョン(接触部やくぼみを暗くして立体感を出す陰影のこと。以下AO)は、床と家具の脚が接する部分、壁と天井の入り隅、レンガの目地など、光が回り込みにくい場所を自然に暗くします。この陰影がないと、家具が床に浮いて見えたり、面と面の境目がのっぺりしたりします。VRayDirtはその「接地の影」を後から足せる仕組みです。

なぜ建築パースで細部と接地陰影が要るのか

理由はシンプルで、人の目は「情報のない面」を不自然だと感じるからです。現実の壁には標識や配管、汚れがあり、床とものの接点には必ず影があります。CGでこれらを省くと、清潔すぎて逆に嘘っぽく見えてしまいます。

だからこそ、質感(マテリアル)の土台を作ったうえで、VRayDecalで「あるべき画像」を足し、VRayDirtで「あるべき影」を足す、という上乗せの発想が効いてきます。質感そのものの作り方はVRayMtlの反射・屈折を設定する|建材の質感を作る基本パラメータで解説しているので、土台ができていない場合は先にそちらを固めておくと、この記事の内容が活きます。

VRayDecalで標識・ロゴ・汚しを貼る手順

VRayDecalは、投影用の枠(ギズモ)で貼る位置と大きさを決め、そこに画像を投影する流れで使います。UVを触らないので、貼る・剥がす・動かすが気軽にできるのが実務での利点です。

Decalを作成してギズモで位置と大きさを合わせる

最初にVRayDecalオブジェクトを作り、貼りたい面の前にギズモを置きます。ギズモは投影のサイズ・配置・投影の届く範囲をビューポート上で調整する枠で、Chaos公式も「サイズ・配置・投影限界をコントロールする」と説明しています(VRayDecal|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。

枠を面に向けて、標識を貼りたい範囲に大きさを合わせるだけで、投影の準備が整います。ここでUVを一切気にしなくてよいので、たとえば湾曲した壁でも凹凸のある外壁でも、同じ手順で貼れます。

貼る画像をマスクで抜く

標識やロゴは、四角い画像のまま貼ると背景の余白まで面に乗ってしまいます。そこでマスク(表示する部分と透明にする部分を分ける白黒の情報)を使い、標識の形だけを残して周りを透明に抜きます。

ロゴのPNG画像であれば、透過部分がそのままマスクとして働くので、余白のない状態で面に貼れます。汚しを表現したいときも同じで、汚れの濃淡を描いた画像をマスク側に入れると、その形と濃さで面に汚れが乗ります。マスクを使うと後述するGPUレンダリング時の枚数条件に関わってくるので、その点はH2-4の注意点で整理しています。

曲面・角度への追従を整える

貼る面が平らとは限りません。丸い柱や、斜めに交わる壁に貼るときは、Decalが面からはみ出したり浮いたりしないように角度を調整します。

このとき使うのが、曲面へのなじませ角度を指定するBend、投影が適用される法線角度を制限するNormal angle、投影の前後位置を調整するProjection Offset(%)です(VRayDecal|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。Normal angleを絞ると、枠の正面に近い面だけに標識が乗り、側面への回り込みを抑えられます。柱に標識を巻きたいときはBendで曲面になじませる、といった具合に、面の形に合わせて使い分けます。

汚し・凹凸を面に足す

画像を貼るだけでなく、Decalには表面の凹凸を足す機能もあります。ステッカーの厚みや、剥がれかけた塗装の段差のような、わずかな出っ張りを作れます。

これを担うのが、変位(表面を実際に凸凹させる処理)に加算する値のDisplacement Shiftと、元のモデルの変位を無視してDecalの変位だけを使うUse Only Decal Displacementです(VRayDecal|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。面全体の凹凸表現そのものを深く作り込みたい場合は、Decal単体よりもディスプレイスメントで表面ディテールを出す|レンガ・石の凹凸表現で解説している本格的な変位のほうが向いています。Decalの変位は「貼ったものの厚み」を出す用途と考えると分かりやすいです。

VRayDirtで接触部の陰影を作る手順

VRayDirtは、Radius(半径)とOccluded/Unoccluded colorで「どこまでの範囲を・どんな色で暗くするか」を決めるのが基本です。設定の勘所を押さえると、のっぺりした画に自然な接地の影が乗ります。

VRayDirtを作ってRadius・Occluded colorを決める

VRayDirtを暗くしたい対象のマテリアルに割り当て、まず効果が出る範囲を決めます。範囲はRadiusで指定し、これはシーン単位(モデルの実寸に対応する長さの単位)で「くぼみからどのくらいの距離まで陰影を出すか」を表します(VRayDirt|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。

Radiusが小さいと入り隅のごく狭い範囲だけが暗くなり、大きくすると広い範囲までなだらかに暗くなります。次に、遮蔽された部分の色を決めるOccluded colorと、遮蔽されていない部分の色を決めるUnoccluded colorを設定します。標準的なAOなら遮蔽側を暗いグレー、非遮蔽側を白にすると、影の濃さが分かりやすく制御できます。

Radiusはテクスチャで制御することもでき、公式によればテクスチャが白い箇所では設定した半径がそのまま使われ、黒い箇所では半径0.0になります(VRayDirt|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。汚れを出したい場所と出したくない場所を、白黒の画像で塗り分けられるということです。

Distribution・Falloff・Subdivsで影を整える

範囲を決めたら、影の広がり方となめらかさを調整します。ここで効いてくるのがDistribution・Falloff・Subdivsの3つです。

Distributionは陰影を面の内側にどう寄せるか、Falloffは影の境目のなだらかさを左右します。Subdivsは影の計算に使うサンプル数で、値が小さいと影にザラつき(ノイズ)が出て、上げるとなめらかになる代わりにレンダリング時間が伸びます。まずは影の範囲と濃さをRadiusとcolorで決め、ノイズが気になったらSubdivsを上げる、という順番で触ると迷いにくいです。

アンビエントオクルージョン用途とMode切り替え

VRayDirtは、接触部を暗くするだけでなく、AOを1枚のパス(後処理で合成するための単独レイヤー)として書き出す使い方もできます。用途はModeで切り替えます。

公式ではModeとしてambient occlusion(通常のAO計算)とreflection occlusion(反射のオクルージョン)などが用意されています(VRayDirt|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。このほか、陰影の向きを反転するInvert normalや、GI(グローバルイルミネーション。光の間接的な反射計算)にこの効果を含めるかを決めるIgnore for GI、同一オブジェクト内だけで陰影を計算するConsider same object onlyといったパラメータもあります。合成で色味を後から追い込みたいなら、本体に混ぜ込むより独立したAOパスとして出しておくと調整の自由度が上がります。

VRayDecalとVRayDirtの使い分けと注意点

迷ったときの選び方はシンプルで、「画像を貼りたいならDecal、影を足したいならDirt」です。目的が最初から違うので、両者を比べて選ぶというより、必要なほうを必要な場所に使う関係になります。

迷ったらこう選ぶ

案内標識・企業ロゴ・床のライン・意図した位置の汚しなど、「特定の絵柄を特定の場所に置きたい」ならVRayDecalです。一方、家具の脚と床の接点、壁の入り隅、目地の奥など、「くぼみや接触部を自然に暗くしたい」ならVRayDirtになります。

実務では両方を重ねることも多く、たとえば外壁に雨だれの汚しをDecalで貼りつつ、窓まわりの段差にDirtで陰影を足す、といった併用でリアルさが増します。

GPUレンダリング時の制限

V-Ray GPU(GPUを使う高速なレンダリングモード)でDecalを使うときは、重ねられる枚数に条件があります。公式によれば、マスクを使う場合や透過(translucency)が1未満の場合、重ねられるDecalは最大4枚までとされています(VRayDecal|Chaos Docs、2026年7月8日現在)。

同じ面に大量のステッカーや汚しを重ねたいときは、この上限を意識してください。5枚目以降が必要になったら、複数の汚しを1枚の画像にまとめてから貼る、という組み立て方で枚数を抑えられます。CPUレンダリングではこの枚数条件はないので、重ね数が多い演出はCPU側で処理する選び方もあります。

ホスト別の始め方

VRayDecalとVRayDirtは、3ds Max・SketchUp・Rhinoなど複数のホストソフトで使えますが、作成の入口はソフトごとに少し違います。たとえばSketchUp版のDecalは、Width・Height・Projection・Normal angle・Bend・Mask・Displacementといったパラメータを持ち、UVなしで面に投影する考え方は共通です(Decal|Chaos Docs(SketchUp)、2026年7月8日現在)。使っているソフトのメニュー構成に合わせて、同じ発想で読み替えてください。

VRayDecalとVRayDirtを編集部が使ってみました

細部の作り込みで最も効くのは、標識1枚の追加とごく薄い接地の影だと編集部は考えています。以下は実測ではなく、公式の仕様と作り込みの経験からの所感として読んでください。

標識・汚しを1枚貼るだけで情報量が変わる

もっとも実感しやすいのは、VRayDecalで標識や汚しを1枚足したときの変化です。空っぽの壁に案内標識を1つ、床に薄い摩耗の汚しを1枚貼るだけで、「人が使っている空間」の気配が出ます。

公式が「雪の表現」のチュートリアルを用意しているように(How to Create Snow with VRayDecal|Chaos Docs、2026年7月8日現在)、Decalはロゴだけでなく、積雪や水たまり、経年の汚れといった「面に乗る現象」全般に応用できます。編集部としては、まずカメラに近い1〜2面から貼り始めるのが、手間と効果のバランスが良いと感じています。

Dirtは「かけすぎない」のがコツ

VRayDirtで注意したいのは、影を強くしすぎると画が汚く沈むことです。Radiusを大きくしすぎると、本来明るいはずの平らな面まで暗くなり、全体がくすんで見えます。

編集部の見立てでは、Dirtは「言われないと気づかない程度」に留めるのがちょうどよく、入り隅や接点にだけ薄く効かせると自然です。強い陰影が欲しい場合は、Dirtで無理に濃くするより、ライティング側で影を作るほうが破綻しにくいと考えています。

活用シーンと次の一歩

すべての面を作り込む必要はありません。カメラに近い面から優先して細部を足していくのが、効率と仕上がりを両立させる考え方です。

活用シーン

たとえばオフィスビルのエントランスなら、受付横の表札やフロア案内をVRayDecalで貼り、自動ドアのレール部や床と壁の境目にVRayDirtで陰影を足します。集合住宅の外観なら、外壁の雨だれや窓下の水垢をDecalで、庇の裏やバルコニーの入り隅をDirtで作ると、実在感が一段上がります。

住宅のリビングでは、フローリングの摩耗跡をDecalで薄く入れ、ソファの脚と床の接点にDirtで影を足すと、家具が床にきちんと乗って見えます。

次の一歩

作業の順番は、質感の土台を先に固めてから細部を上乗せする流れが崩れにくいです。まずマテリアルの反射・屈折をVRayMtlの反射・屈折を設定する|建材の質感を作る基本パラメータで整え、必要ならディスプレイスメントで表面ディテールを出す|レンガ・石の凹凸表現で大きな凹凸を作り、最後にVRayDecalとVRayDirtで標識・汚し・接地の影を足す、という順です。

テクスチャの繰り返しやUVなしの配置で悩んでいる場合は、Triplanar・ランダマイズでテクスチャを配置する|UVなしマッピングと繰り返し回避も合わせて読むと、面へのテクスチャの乗せ方全体が整理できます。

まとめ

VRayDecalとVRayDirtは、建築パースの「のっぺり感」を消すための2つの道具です。要点を3つに絞ると、次のようになります。

  • VRayDecalは、UVを作り直さずに標識・ロゴ・汚しを面へ投影する機能。ギズモで位置と大きさを決め、マスクで形を抜き、Bend・Normal angleで面になじませる。
  • VRayDirtは、くぼみや接触部を暗くするAO用のテクスチャ。RadiusとOccluded colorで範囲と色を決め、Subdivsでノイズを整える。かけすぎないのがコツ。
  • 迷ったら「画像を貼るならDecal、影を足すならDirt」。GPU使用時はマスク・透過ありで重ねられるDecalが最大4枚までという条件に注意する。

質感の土台を作ったうえでこの2つを上乗せすると、細部の情報量と接地の影がそろい、画の説得力が一段上がります。V-Rayのマテリアル全体像から押さえたい場合は、V-Rayマテリアル完全ガイド|VRayMtlとPBRで質感を作るを入口にしてください。